スコップの場合
掘っても掘ってもまだ足りない。
掘れ掘れとてつもなく掘れ。
俺はスコップの妄人。
シャベルスコップ。
喋るスコップでも結構さ。
まぁいいや。
俺は掘ることに特化したこのスコップが大好きでな。
とにかく穴を自分の手で掘りたいって思うんだ。
穴を掘る。
それは、貫通させる手段のひとつ。
俺はそれをスコップに見出したんだ。
大地に俺をつきたて、もっそもっそと穴を掘る。
その穴がどこかに通じなくても、
何かの穴としてつかってくれたら俺は嬉しい。
ゴミ穴でも結構さ。
でも、穴は副産物というか、
俺は穴を掘る道具でありたいだけなのかもしれない。
貫通させて、向こうとこちらをつなぎたいのかもしれない。
具体的に何に穴を開けて貫通させたいのか、
俺はまだわからないけれど、
掘って掘って掘って。
どこかに通じる気がするんだ。
俺の身体が穴を掘る。
決して大きな図体じゃないさ。
でも、小さなこのスコップが、
いつか何かに通じると。
穴が何かの息吹をつなげると。
俺は多分そう思っているのかもしれない。
新しい世界に、穴が貫通するような、
この身体が一番にそこに届くような、
そういう妄想をしている。
新しい世界はどこだ。
それは、この大地の下に眠っている。
ならば。
俺は、掘る。
小さなスコップで、掘って掘って掘りまくる。
俺は深く俺は穴を広げてもっと深く。
俺はどこまでも深く深く掘って掘って。
この広大な大地に風穴を開けよう。
その手段は爆薬でなく、
俺の身体で掘りまくること。
世界を変えるのは小さなスコップで、
それは小さな穴に過ぎないかもしれない。
けれど、その穴から次の時代の風が吹くはず。
つなげ、時代を世界を、古いものと新しいものを。
穴掘ってつなげ。
しゃべりすぎたな。
じゃ、俺はまた掘るから。
俺は人、俺は物。
俺は妄人。
妄想の果てに物になりかかっている、妄人。
俺はスコップの妄人。