精霊店


誰がこんなものになりたいと思うのか。
この町へ来たばかりの彼はそう思った。
彼はシアン・ロンという、自称見習い風水師。
ロンのほうが一応姓になるのは、この世界のお約束。
とにかくシアンは風水師になりたくて、この町にやってきた。
毒物の名前なのは、彼なりのかっこよさだ。
ダサいとよく言われるけれども。

何にでもなれる世界だから、
姿を売る店がある。
頭ではわかっているけれど、
どうにも、この世界になじむには時間がかかりそうだ。
変装とはまた違う、なりきりに少し似ている、
体格も性別も、偽ることが出来る。
偽りだらけの町なんだろうか。

猫頭のほほえましいキャラクター。
等身の低い、兵士のようなユニークなもの。
おじいさん、おばあさん。
「普通ってのはないのか、この町」
シアンはつぶやくけれど、
そもそもこの町は普通ではないんだった。
クーロンだ。

探せば普通もあるのかもしれないけれど、
この町で風水師になる以上、この町っぽくなることが流儀のような気がした。
この町っぽいとはなんだろうか。
シアンは精霊店から大通りを見る。
何でもありのような気がする。
なんにでもなってもいい気がする。
けれど、シアンは多分シアンにしかなれなくて、
いくら精霊で姿を変えても、
シアンはシアンにしかなれない。

偽りだらけに見えるけれど、
この町は本質が見える町なのかもしれない。
シアンはそう思って、精霊店をあとにした。


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