空の意味
この場所は覚えている。
他の誰もが忘れても。
クーロンの謎の人と呼ばれているコンビ、
イエローハットとオートバックスバニーは、そんなことを思う。
ペンキをぶちまけたような黄色い帽子をかぶったイエローハットと、
無言になると怖い、着ぐるみ兎の姿をしたオートバックスバニー。
断っておくが、彼らは車のことに詳しいわけではない。
勘違いされるが、たまたまである。
「いろいろ、有限なんだね」
バニーがつぶやく。
「有限であるから人は忘れ、有限であるから人は忘れない」
イエローハットはとうとうと語る。
「どっちがホントなんだよ」
バニーは不満そうに。
「どちらも真実だ。真実が一つなのは探偵だけでいい」
イエローハットは、煙に巻く。
いつものことであるが、バニーはまた置いてかれたと思う。
このクーロンの町は、
複雑なようで、理解すればわかるような気がして、
そのくせ、いつも何かが増えたり減ったりして、迷子になる。
今彼らがいるのは、
少し前に、店が代替わりした場所。
置いていかれたと、なんとなくバニーは思った。
車のことが詳しいわけでなくても、
空に特化した機械のお店は素敵だった。
バニーは、ここに店を構えた、新しい雑貨屋も素敵だと思う。
思うだけに、新しい記憶で素敵なお店の記憶がなくならないか、
不安になるし、忘れたくないと思う。
「何もかもが勘違いに過ぎんよ」
イエローハットは語る。
「何が勘違いなのさ」
バニーはちょっとだけムキになる。
「われわれが車に詳しいことも、忘れるという現象も、真実が一つなのも」
イエローハットはにやりと笑って、続ける。
「全てが勘違い、ミステイクに過ぎない」
バニーはよくわからない。
「空に意味を求めるものがいたっていいのさ、この場所が覚えていればそれでいい」
イエローハットはそう言う。
ペテン師のごとく怪しいけれど、それも勘違いなのかもしれない。