ジェット
ミスター・フーは、クーロンの町の入り口近くにある、
ジェットグラフィックスの建物の近くにいた。
ミスター・フーは、年齢不明の男だ。
白いスーツを着ていて、目つきは鋭い。
かもし出す雰囲気が、混沌のアジアのそれと、
何かを飲み込むかひっくり返すかするような、
多少、狂気と暴力を隠している。
一言で言えないけれど、危険を内側に持っている。
ミスター・フーはそういう男だ。
「あなた達には感謝しています」
ミスター・フーはつぶやく。
「あなた達がいて、このクーロンはできた」
ジェットグラフィックスの建物には誰もいない。
シャッターがおりてそのままになっている。
「最初の加速に、ジェット噴射は必要だった。ジェットが」
ミスター・フーは看板を見る。
いつもと変わらない、クーロンのネオンの看板。
ぎらぎらと夜空を彩る。
「この場所を荒らしはしませんよ。ただ、私の野望にはこういう場所が必要なんです」
ミスター・フーは、笑う。
「存在しないものを、存在させましょう。この世界で。このクーロンで」
この世界は何でも出来る。
この世界の理を超えない範囲で。
ミスター・フーはそれをわかっている。
だから彼はこの世界にきた。
そして彼はクーロンを選んだ。
この町の管理をしているという、
ジェットグラフィックスという会社に感謝の意を示した上で、
その感謝も彼の形式上に過ぎないのかもしれないけれど。
ミスター・フーは動き出す。
「さて…手始めに歌姫をいただきましょうか」
ミスター・フーは、大通りを一人歩く。
その後ろから、風の音が嘆くように。