男人街


別に男物がある町ではない。
名前として、男人街。
そこをサイコロの妄人のカンは、昔を思い出しながら歩いていた。
カンはサイコロに魅入られた妄人だ。
この男人街の店舗を決めるときだったか。
それとも別のときだったか。
この先にあるパンダ広場で、数々のサイコロが振られた。
サイコロが転がるだけ、
そして、目を出すだけ。
それだけで、店を持てるか持てないかが決まった。
カンはそれに魅入られた。
サイコロになりたいと強く願ってしまった。

神様の下僕とかそういうのかなとカンは思う。
サイコロの神様の運命を、伝える係なんだ、僕は。
カンはそう思うと高揚するし、素敵だな。と、思う。
だって、神様がいるんだよと、
偶然を気まぐれに決めている素敵な神様。
スリリングな神様。
さいこーじゃないか。

カンはふと、人だった頃を思い出す。
よぎるのはいつも麻雀の音。
ジャラジャラという麻雀牌を洗う音。
みんな元気かなと、カンの人だった思い出はいうけれども、
悲しいかな、サイコロになりすぎていて、
カンはそれ以上思い出せない。

よその街に行ったロン…
今、幾つだろう。
そもそもここで何年俺はこうしてサイコロでいるんだろう。

よぎっていったカンの記憶は、
サイコロの神様が幸せな使命感に塗り替える。
俺はサイコロ、ころころ転がって神様の気まぐれを伝えるのさ…
カンは笑う。
麻雀でいい手が来ると、いつもそうだったように。


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