白黒


さて、ここはどういう店なんだろう。
クーロンズゲートの思い出を抱えたこの男は、
店を覗き込む。
かわいいパンダと眼鏡の店。
「えーっと…」
男は戸惑う。
クーロンズゲートにはこんな店なかったと、
多分ここに来てから10回以上言っている。

男は、リッチにあこがれて、クーロンのバーテンをやりたい、
シェーカーを振りたい、「メールが来ているぞ」と、言いたい。
そういうちょっとだけミーハーで、ディープなやつだ。
名前はとりあえず、ロックという。
酒にちなんだ名前を考えた末の名前だ。
手塚治虫のキャラとは関係がない。

ロックは、店にはいってみる。
パンダはともかく、色つき眼鏡はいいかもしれない。
いや、伊達眼鏡もありかもしれない。
いいなぁ、眼鏡。
妄人になる気持ちがちょっとだけわかる。そんな気がする。
ロックは眼鏡をひとつ買い、
じっとパンダ商品の看板を見る。
「これ、クーロンなのかな」
ロックの知るクーロンズゲートには、
こんなにかわいいものはなかった。
でも、町の噂によると、このパンダと眼鏡の店は老舗で、
ここなしにはいろいろなものが語れないと聞く。

クーロンというこの町と、
クーロンズゲートは、と、ロックは考え、
双子、いや、兄弟?
根はきっと同じようなところ。
育つところが違えば、こんなパンダもあるのかもしれない。

「これもクーロン」
ロックはつぶやき、うなずく。
これもクーロンともう一度つぶやいて、
ロックはパンダの着ぐるみを買う。


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