地下のバー
ロックは、うろうろと町を歩く。
彼は、クーロンズゲートの思い出を抱えている。
クーロンズゲートの登場人物になりたくて、
そういう場所を探している最中だ。
西城路の近く、
ロックは地下へと続く階段を見つけた。
「バーだ」
たいてい誰もいない、このバーが、
昔はそこそこにぎわったことを、ロックは知らない。
まだ店も持たない路人だった住人が、
集っていろいろな情報交換をした、
クーロンの中でもちょっとディープな場所だった。
ロックは当然そんなことを知らない。
昔のにおいがなんとなくするなと、
そう感じる程度だ。
適度に汚れていて、適度に暗い。
さすがクーロン、こういう場所もあるんだなぁとロックは思う。
ロックの理想はリッチの店だけれども、
ここも悪くないなぁと思う。
一体誰の店なんだろう。
ちょっとだけ、バーのマスター気分に浸るには、ちょうどいいかな。
ロックは地下のバーにお邪魔して、
なんとなく、クーロン住人っぽい台詞を思い浮かべる。
カウンターの中に立って、
「おい、あんたにメールが来てるぜ」
一言言ってみた。
誰もいないから、突っ込みもない。
この場所が、ロックの呟きを覚えているかもしれない。
たいてい誰もいないらしい地下のバー。
ロックは、とりあえずこのバーを覚えておくことにした。
この町になじんだら、ここを拠点にするのもいいなと。
なじむ頃にはどのくらい知り合いがいるだろうか。
そして、いくつこのクーロンの思い出を抱えられるだろうか。
それはそれで幸せのような気がした。