壁男


「はこおとこ?」
オートバックスバニーは訊ねる。
「壁男だよ。壁のことばかり考えていたらそうなるのさ」
イエローハットが答える。

西城路の商店街を抜けた先。
広場に壁男はいる。
昔はこの壁男の落書きを落とすアルバイトがあったと聞く。
心の純粋な、妄人の壁男が壁と同化している。
エイディーから聞くところによると、
壁男にはいろいろな物語があって、
壁男を気に入った大きな国の王様がいたなんて、
そんな話もあったそうだ。
相変わらずの、ホラとも真実ともつかない話だ。

「この壁男には友達がいるんだ」
イエローハットは話す。
「でも、彼らは最近なかなかクーロンには来ないようだけどね」
「どんな人なんだい?」
バニーは訊ねる。
「愉快な連中さ。ファニーファニーな連中だよ」
「へぇ…僕も会いたいな」
「なかなか難しいね」
イエローハットは答え、
「いろいろ大変なんだ。きっと忙しいんだよ」
曖昧な答えで、煙に巻く。

「バニー、思いというものはどこに行くと思う?」
イエローハットが謎をかける。
「思い?」
「思うに」
イエローハットは語りだす。
「思いは重いものだ。それは澱のようにこの町に沈み」
バニーは沈む思いを想像してみる。
「やがて、壁や建物と同化して、この町の空気になるのさ」
イエローハットは言葉をちょっとだけ区切り、
「壁男は、そんな思いを、記憶を、よく感じているはずさ」

バニーは思う。
思いを感じられる壁だから、
だから、友達がなかなか来なくても、
物にならずに壁の妄人としてたたずんでいられるのかな。
この町と一体化している壁男がちょっとうらやましくなって、
バニーは壁男をちょっとつついた。


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