邪気の椅子
西城路の壁男広場から、東へ歩いてほどなく。
海に突き出たそこに、光る椅子がある。
それは邪気の椅子と一部で言われていて、
座ると、いたずらをするらしい。
見習い風水師のシアンは、邪気の椅子を見にきた。
本当に悪いものならば払わなくてはいけないと思っている。
しかし、まがまがしい気配は少なく、
ただ、ぽつんとある椅子が、
変な光をまとっているだけに過ぎないと思わせる。
過ぎない、と、思ってしまうのは、
この町があちこちずれているからかもしれない。
妄人がいるし、化け物はあちこちいるし。
そんなものに比べたら、邪気の椅子などと呼ばれているこれは、
ずいぶんまともで、おとなしいように思われる。
クーロンに感覚が毒されているのかなとシアンは思う。
判断基準が、だいぶ偏っている気がする。
シアンは椅子には腰掛けないで、
近くによって、しげしげと眺める。
椅子は語らない。
妄人ではないし、語ることもないかもしれない。
けれど、シアンはどこかで聞いた噂を思い出す。
誰だったか。噂を振りまく奴だったかもしれない。
エイディーか?
噂は言っていた。
昔、椅子のことばかり考えていた、椅子の妄人がいた。
妄人が妄想を途切れさせるとどうなるか。
物になるんだ。
椅子の妄人は椅子そのものになった。
そこに邪気が宿らないとも限らないだろう。
邪気が宿れば、物は鬼律になる。
悪さをする化け物になるんだ。
邪気が気力を奪うほど滲んでいる訳でないこの椅子。
さて、どんな悪さをするのか。
多分腰掛けないとわからない。