老人中心
マオニィは、老人中心という場所に来ていた。
建物に入ると、パイプ椅子が並んでいる。
マオニィは首をかしげ、
とりあえずそういう場所なのかなと思う。
老人中心。
老人ホームなどではない。
今は椅子が並んでいるに過ぎない場所だけれども、
マオニィはここで、何かがあったことを感じる。
マオニィ自身に記憶がないからできる、
場所の記憶への接続。
今度の記憶はマオニィの空虚を埋めてくれるだろうか。
ゆらゆらと場所の記憶に沈み、
マオニィは、きらきら輝く空間にいた。
そこでは、元気な老人達が、
クラブやディスコや、そういったものさながらに踊っている。
いずれこういう老人になれるなら、
マオニィは老いを怖いものと思わなくていいかなと感じた。
ミラーボールのようなものがあって、
くるくると照明が乱反射。
老人は元気に踊り、
なるほど、老人の中心がこれならば、
生を謳歌するのは若い者だけの特権ではない。
「楽しんでるかいお嬢ちゃん」
声をかけてきたのも老人で、
あんまり年を取ってくると、性別なんて超越するのかなと思わせる。
「お嬢ちゃんは、確かなものが必要かい?」
老人はマオニィに問いかける。
「何も確かなものは、いらないさ。心がひとつあればそれでいい」
「楽しもうじゃないか、この世界を、大いに!」
「善も悪もない。全て老いれば、とけてなくなるのさ」
老人達が楽しそうに言っているそれを聞き、
マオニィはその輪に加わろうとする。
「お嬢ちゃんには、まだ早いよ」
マオニィは、一歩踏み出そうとして、
パイプ椅子が音を立てた。
もう、老人達の姿はなくなり、
元の老人中心に、マオニィは一人だった。