走る


それから。
コゲマメに会えない日が数日続いて、
私は田舎をあとにして、家に帰ることになった。
コゲマメはこうして終わらせたかったんだろうか。
泣き顔を最後に思い出すのは、いやだなと私は思った。
夏休みは終わる。
どうしようもないことだけど。

帰る日の朝。
私は、荷物をまとめて、夏の終わりを感じていた。
心を満たしていた夏の輝きが、
ぽっかりあいたままの感覚。
さびしいと最初に思い、このままでいいのかと、
コゲマメを泣かせたままでいいのかと、
私に出せる答えはひとつ。
「でかけてきます!」
私はばたばたと、夏の間に酷使したスニーカーを履く。

忘れ物をとってくる。
夏休みの友だ。

私は走る。
夏休みの終わりを走る。
コゲマメの行きそうなところを、しらみつぶしに当たる。
コゲマメは何が好きだったか、
きらめく思い出をたどり、
汗は流れるままに、酷使したスニーカーをさらに酷使して。
思い出をたどっていって、
私は、ふと、思い出す。
まさかと思う。

私は、夏のための感覚を開いた感じになる。
身体が涼を求めていた、ぎらぎらした夏。
涼しげな水が欲しかった、原始的な感覚。
この田舎で最初にした冒険。
小さな川を自力で見つけた私の冒険。
そう、その冒険は見つけた後にも話があった。

私はあのときのように、自分の感覚を頼りに探す。
そして、あの場所に、奇跡的にたどり着く。

「ここ、見つけたの? いいところでしょ」
あの時。最初の冒険のその場所で、初めて出会ったのがコゲマメだった。

コゲマメはあのときの場所にいた。
私を見つけて、どうしようもないような顔をした。
私は息を切らしながら、言葉を伝える。
「友達、夏が終わっても、ずっと、だから、また、会いにくる、から」
「ほんとう、に?」
「また、会おうね。ずっと、友達だよ」

コゲマメはようやく、それで笑ってくれた。
「モヤシの癖に」
「コゲマメの癖に」
いいあって、私たちは笑った。


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