俺は時の檻で嘘をつく 3月7日
俺は、3月4日から13日までの、
テレビラジオの類は、全部暗唱できる。
タマキにチャンネルを選ばせて、
適当にかけたその番組を、
見事シンクロしてそらんじることができる。
タマキはびっくりして、CMに入ったところで拍手。
「ユウヤすごい」
「そうでもないさ」
「そうでも、ないの?」
「どうしようとも、13日までの期間、大体何しても世の中変わらない」
「そういうもの?」
「試してみたから言えることもある」
「ふぅん…」
タマキはごろんと猫のように横になった。
「服装かえても何にも変わらないってことなのかな」
「ああ、不良の格好?」
「友達いなくなった、親から絶縁された」
「大きく変わったじゃないか」
「うまく言えないけどね」
タマキは前置きして、
「あたしが悪くなると、みんながいい人になるの」
「はぁ?」
「誰かが不良にならないと、誰を罰していいかわかんない」
「それで不良?」
「うん、みんな出荷される野菜のようにおんなじだから、あたしでないとだめ」
俺は何となく、まっすぐそろったキュウリを想像する。
まがったキュウリはよくないのかな。
「俺には理解できない」
「それでいいの。あなたのことを理解してますっていうのが、一番厄介」
「どこかの先生?」
「うん。あなたが何に対して反抗しているのか、わかりますって」
「反抗なのか?」
「違うと思うんだけど、理解されたらそういうことになってた。厄介」
「大人だと思い込みたい連中は、きっとそういうことにしたいんだよ」
俺は理解できない。
多分、よその連中に、2万回のループを話しても、
同じように理解されまい。
「ニュースをそらんじることできるけど」
俺は話し出す。
「どうしてそういうことに至ったのか、それが俺はいまだに理解できない」
「どのニュースのこと?」
「ぜぇんぶ」
俺は強調する。
俺は2万回のループで何一つ理解していない。
ニュースだって、CMの歌だって、全部覚えた。
でも、俺はタマキが厄介という教師か何かのように、
何一つ、理解には至ってない。
タマキが不良になる理由も、俺には理解できない。
何一つ。
嘘も本当もわからない。