俺は時の檻で嘘をつく ３月８日
どう俺が行動すれば、結果がどうなるのか。
わかりきった日常。
タマキは結局居ついている。
どこにも行き場がないのなら、それでもいいと思う。
昼間。
俺とタマキは公園に行った。
天気は晴れ。
風も強くない。
８日はいつもそうだ。
花粉症云々の影響で、
道行く人のマスク率は異様に高い。
俺とタマキはコンビニのおにぎりを、適当にベンチに座って食べる。
時の檻に入ってから、
一人でベンチでおにぎりをしたことはあるけれど、
二人、タマキと一緒というのは初めてなんだよなぁ。
わかりきらない日常。
理解できない他人。
そういうものが隣にあるのは、
とても、刺激的で目の覚めるようなことなのかもしれない。
タマキが転がってきたボールを手にする。
誰かに返しに、ベンチを立って走っていった。
「あれで不良かぁ…」
俺はぼんやりとタマキを目で追う。
子供にやさしいというところまで、遠目でもわかった。
あれで不良を自称するのなら、
昨日言っていたように、みんなのために不良だというのなら、
「スケープゴート」
俺は何となく出た一言にぞっとした。
みんなの代わりに殺される、いけにえの山羊。
みんながいい人で、まともな人である証に、山羊が殺される。
大きな悪が存在しづらいから、身代わりなんだ。
長いスカートや、小さなピアス。
それで誰も味方がいなくなる。
きっと彼女の学校では、彼女はすでに不良として定着していて、
まともに学生を送れないように周りが固めたのかもしれない。
腹が立つけれど、
なんでか腹が立つけれど、
今この時間、タマキが笑顔でいるのなら、それでいいと思った。
「お前もまともになりたいなら、彼女を身代りにするといい」
不意に、しゃがれ声。
俺の足元に、大きなカラスがいた。
それが、しゃべっている。
「時の檻から出たいのなら、あの娘を身代りにするがいい」
カラスは目を細めた。
「なぁに、あれは犠牲になりたがっている生き物よ」
「ユウヤー」
タマキに呼ばれた。
一瞬目を離したすきに、
カラスはいなくなっていた。