俺は時の檻で嘘をつく ３月９日
しゃべるカラスの不吉な言葉。
昨日の公園の帰りから、俺はぐるぐる考え事をしていた。
俺がまともになりたいなら、タマキを身代わりにしろと。
そして、タマキは犠牲を望んでいると。
時の檻から出るには、どうもいけにえが必要という口ぶりだった。
現在３月９日午前３時。
タマキはソファに毛布でスースー眠っている。
俺は自分の狭いベッドで寝ている。
ソファはホストの稼ぎで特別寝心地いいのを買った。
ループに巻き込まれる前に、だ。
ホスト。
そういえば今夜の分は、無断欠勤をした。
携帯を見たらメールがそれなりに届いていた。
今までの２万回のループのなかの経験から、
３月９日に無断欠勤をすると…。
一応そのあとどうなるかは全部経験済み。
１３日まではできることは大体経験済み。
生きることも食べることも楽しむことも死ぬことも。
全部。
俺はループに巻き込まれてから、
死んだらここから抜け出せるはず、と、
死ぬことを繰り返した時期があった。
車に轢かれてもみた。
電車に轢かれてもみた。
飛び降り自殺は場所を変えて何度もした。
ガスも包丁も首つりも、
とりあえず全部試した。
頭があまり良くないから、考えられる限り、ではあるけど。
死ぬと、３月４日に戻ってきた。
そこからまたやり直しになる。
なんで発狂しなかったんだろう、俺。
なんでまともなふりしてループの中にいるんだろう。
死ぬ痛みに慣れてまで、
俺はどうしてここにいるんだろう。
俺はベッドから降りて、ぺたぺたとソファに近寄る。
タマキはスースーと安心しきって寝ている。
髪をそっと撫でてみる。
ひどく柔らかい。
この生き物をいけにえにして、
俺はまともである証を得ようというのか。
タマキが犠牲になりたがっているなんて、
嘘だとだれか言ってくれ。
誰かが悪にならないと、まともになれない、
そんな学校で悪になって、
どこにも行き場がなくなったという、
タマキの話も嘘にしてくれ。
だれか、タマキが幸せでいいと言ってくれ。
いけにえや不良や悪や、
そういうものから、解放してやってくれ。
タマキは眠っている。
太陽もまだのぼらない、３月９日の朝。