俺は時の檻で嘘をつく 3月10日


3月10日。夜。
俺はホストの仕事に出勤した。
変な言葉かもしれないけれどそうなんだ。

このままタマキのそばにいたら、
なんだか、身代わりになってくれと言い出しそうで、
自分がとても醜いものになりそうで、
嫌になって、
そして、嘘つきの職場に出勤する。
嘘はいい。
嘘だから何を言ってもいい。
真実であれば、と、それを振りかざすのとは違う、
真実であれば何を言っても真実だから悪くないってのが、
俺は大嫌いだ。
嘘にくるんであげなければいけない、
弱いものがこの世の中にはある。
弱いのは俺も一緒だけど、
傷をなめあうのとはまた違って、
嘘も方便というのともまた違って、
嘘だから、そうわかっているから、俺はホストになって嘘つきになった。
強すぎる真実なんて、
暴力と何が違うんだよ。

女性に向けて微笑んで、
きれいだと、かわいいと、美しいと、
美辞麗句に始まり、
嘘を混ぜて、笑顔を引き出す。
金をそうして使わせるのがこの仕事だけど、
いつも通り、ループの中のいつものように、
彼女たちを喜ばせる。

タマキが時々ダブる。
みんなのことを喜ばせるために、不良になったタマキ。
俺は、それは嘘だと言ってあげるべきなんだろうか。
誰が付いた嘘とはわからないけれど、
少なくとも、
タマキのきれいな目は、不良とかそういう目ではない。

「憂夜」
お客が声をかけてきた。
「いつになく目がきれいよね、憂夜」
「そうですか?」
俺は愛想笑いを返すように、王子様のようなキラキラ笑顔をしてみる。
「気が付いてないならいいわ」
「あなたの瞳の方が美しいですよ」
これはいつも通りの返しなのだけど、センスがないことは承知だけど、
「憂夜のきれいな目が、あたしの目に映ってた」
俺は、一瞬理解できなくなる。
「きれいな目で、満たされる思いもあるのよ」
お客はくすっと意味深に笑うと、高いシャンパンをくいっとあけた。

きれいな目に、
タマキのきれいな目に、俺はどう映っていただろう。
そして本来、
10日は水商売休みじゃなかったかと思うのは、
10日という日が過ぎてからだった。
俺のループはこの日をどう処理していたんだろう。


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