俺は時の檻で嘘をつく 3月12日


俺は適当なノートを買ってきた。
この一回のループで、
少しずつずれてきていることがある。
10日の出勤。しゃべるカラス。
そして何より、タマキ。
雨の日に倒れていたタマキを、
俺は結局手元に置いている。
そのほか、覚えている様々のことを、
ノートに書き留めて、13日で終わらせないように、
突破口を探そうと思った。

タマキと二人で14日に脱出する。
遅いかもしれないけれど、
俺なりに何かをして、
そうだな、最善を尽くす?
やってみる。それしかないんだ。

文具屋で適当なノートと、真新しいボールペン。
それから、冷蔵庫にはる付箋を買ってきた。
タマキといるようになって、
二人分の食糧を任される冷蔵庫だ。
何がある、無いをはっておくといいかもしれない。
13日で終わりでないから、
これからが、きっと、あるから。

雨が降りそうな匂いがした。
湿気の匂いというのか、砂ぼこりの匂いというのか、
さっさと帰らないとなぁと思う。
「そう、帰らないと、せっかくのノートが台無しだ」
しゃがれ声。聞き覚えがある。
「おまえは…」
あの時のカラスだ。
歩道と車道の境目のところに、いる。
「この時の檻を二人で出る気か?」
俺はうなずいた。
「お前がゆがみを見つけて、そこから檻を壊すのは」
カラスは言葉を区切り、
「もう5億のループが必要だ」
5億。
「しかし、その時には、彼女はいない」
カラスは、事実をしゃがれ声で告げているようだ。
俺は大体わかる。
理解でないけれど、
大体わかる。
「取引をしないか、あがく檻の住人」
カラスが笑った気がした。
「お前たち二人と同じくらいの代価を、くれないか?」

カラスは羽ばたいた。
「そうすれば、なんとかなるやもしれんぞ」

雨が降ってきた。
カラスは気が付いたらいなくなっていた。

俺は笑いだした。
二人分の代価。
人間二人分を作るくらいのもの。
そんなもの。
いや、否定してはいけない。
考えた。
考えて、雨の中笑った。
ふいに、何かの思考の尻尾を見つけた。


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