自由をもっと


妄想屋の夜羽は、テープを示す。
「自由はお好きですか?」
年代もののテープレコーダーに、カセットテープをセットして、
再生ボタンをガチャンと押す。
「そして、自由を感じていますか?」

テープは回る。
音声がちょっとのノイズを混ぜて再生される。

「自由をもっと」
声はそう言った。
「自由、ですか」
夜羽が答える。
「自由って言うのは。所有しない所有されないことだよ」
「ではあなたは?」
「僕はね、捨てているところだよ」
「捨てて?」
夜羽が問い返すと、声は答える。
「持っているものを捨てて、誰かに所有されることも捨ててる」
「では、自由ですか?」
「んーん」
声は否定する。
「まだ、僕は自由じゃない」

「僕はね、もっと自由がほしいんだ」
「もっと、ですか」
「うん、僕はもっともっと自由になる」
無邪気な声は、夢見るように深くなる。
「僕は、何もかも捨てて、自由だけをたくさん持った僕になる」
「それは、どういう感じになるのでしょう?」
夜羽は問う。
「僕は自由になる。自由だけを感じて、そして」
「そして?」
「空の感覚の果てを知りたい」
「それは…」
夜羽は何か言おうとして、やめたらしい。
「僕の自由は、何もかもをなくした果てにあるんだと思う」
夢見る声は、何かに潜るように深呼吸をする。

僕はね、空を潜りたいと思う。
それはとても自由をいっぱい持っていないといけないんだ。
所有されちゃ、潜れないんだ。
自由を、たくさん持って、感じて、
初めて空を潜ることができるんだ。
落ちるように浮かぶように、
何物にも縛られないって、自由でしょ。
僕は自由に空を感じたい。
そのとき…

「そのとき、僕は多分、自由でありながら全てなんだと思うんだ」
「全て、ですか」
「うん、だから、何もかもを持たなくても、いいんだ」
「自由さえ、あれば?」
「うん、自由さえあれば」
声は肯定する。
「ひとつだけいいですか?」
夜羽が訊ねる。
「空の感覚の果てには、何が?」
声はちょっと間をおいて、
「まだわからないんだ。でも、きっとたくさんの自由の塊があるんだ」
「…そうですか」
「僕は、それがほしい」

テープは沈黙して、やがて停止した。


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