破壊が美徳


妄想屋の夜羽は、テープを示す。
「彼は破壊を美徳とした」
年代もののテープレコーダーに、カセットテープをセットして、
再生ボタンをガチャンと押す。
「美徳って、なんでしょう?」

テープは回る。
音声がちょっとのノイズを混ぜて再生される。

「破壊が美徳」
低い声がつぶやく。
「いいことなのですか?」
いつものように夜羽が問う。
「まぁな」
低い声は語りだした。

俺のいるところは、あんたのいるところとちょっと違っててな。
ぶっ壊してぶっ殺さないと、俺が豚みたいに殺されるんだ。
だから、破壊は美徳さ。
単純にな。

俺は二丁拳銃持ってて、それで撃ちまくる。
物は壊れるし、生き物は肉になる。
あー、銃の構造とかは勘弁してくれ。
こことはちょっといろいろ違うんだ。
ただ、ガスガス撃ちまくれる拳銃で、
ぶっ壊し能力が高いものだ。

家は燃えて、ビルは崩れて、橋は落として、
犯罪者は殺す、テロリストも殺す、敵はみんな殺す。
お偉いさんも、俺は気に入らないから殺す。
金があってもしょうがない。
報酬は食い物か銃弾があればいいさ。
俺は壊す。
何もかもガスガスガスと壊しまくる。
俺の前に形があるものがあっちゃいけない。
ぶっ壊して、ぶっ壊して、ぶっ壊しつくす。
それが俺の、意味だと思う。

俺は武器、俺は火薬、俺は破壊衝動。
俺の名前は多分なくて、
死にたくなくて壊しまくる。
転がる肉を見ながら、
明日がないことをわかっている。
明日は来ない。今があるだけだ。
俺は、引き金。
破壊は美徳さ。
美徳は夢を見ない。
ただ、

「ただ?」
夜羽は問い返す。
「ただ、全て破壊しつくしたあとを妄想はする」
「どういうものでしょう?」
「空と大地だけがあってな、何にもないんだ」
低い声は穏やかに。
「人も動物も死体もなくて、まっさらの世界。そこに」
「そこに?」
「ちっちゃな花が咲いてるんだよ。俺が壊しまくった世界に」
低い声は、言う。
「俺は多分、それだけは、壊せないんだ」

テープは沈黙して、やがて停止した。


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