機械仕掛けの平和
妄想屋の夜羽は、テープを示す。
「結局、ですけど」
年代もののテープレコーダーに、カセットテープをセットして、
再生ボタンをガチャンと押す。
「平和ならばいいのかもですね」
テープは回る。
音声がちょっとのノイズを混ぜて再生される。
「機械仕掛けの平和」
少し固い声がしゃべる。
「SFみたいですね」
夜羽はいつもの調子で。
「うん、機械仕掛けだから、狂わないし迷わない」
「そうですね」
「僕はそこが大好きで、平和をとても愛している」
「いいことです」
夜羽は肯定する。
固い声は、ちょっと話し出す。
「平和。それはとってもいいこと」
平和はとてもいいこと。
僕はそう信じている。
機械仕掛けを悪く言う人もいた。
そういう人たちは、しばらくしていなくなった。
どこかに去っていったのか、
あるいは、機械仕掛けに愛想をつかしたのか。
僕はわからない。
けれど、結局機械仕掛けになって、
平和が約束されて。
僕は仕掛けの一部になって、
僕は平和を享受している。
心地がいいなと思う日々。
時計のように、繰り返される日々。
たまに、だけど。
僕の頭の中を、たくさんのものが、
走っていくときがあるんだ。
多分、機械仕掛けになったあの場所の、
一部になった僕らに、
命令を送っているのと、それに対する反応と、
それから、僕らの生き方および歴史の、おそらく情報。
僕はあまり気にしないけれど、
すごいなと思うことはあるよ。
だって、これだけの情報が滞りなく扱える機械の正確さ。
そして、僕一人の情報でさえ、その歴史は膨大であること。
仕掛けの中の人々それぞれに、同じかそれ以上の歴史情報。
それが僕の頭を走り抜けていく。
平和の後ろで血液のように流れる情報。
すばらしいなと思う。
「ただ、気になることがないわけじゃないんだ」
「それは?」
「外からの声がするんだ。機械は壊してもいいって」
固い声は、少し悲しそうに。
「平和を作ろうとしているのに、僕も平和の中で生きてるのに」
声は続ける。
「平和は悪じゃないのに。ようやく、誰にも悪くいわれない場所を見つけたのに」
テープは沈黙して、やがて停止した。