君が捨てていくもの


妄想屋の夜羽は、テープを示す。
「この時間の区切りに」
年代もののテープレコーダーに、カセットテープをセットして、
再生ボタンをガチャンと押す。
「残したいもの、捨てていきたいもの」

テープは回る。
音声がちょっとのノイズを混ぜて再生される。

「君が捨てていくもの」
年齢がわかりにくい声。
「どなたが、でしょう?」
「ここにはいないですけど、どこかの君」
「わかりました。どうぞ、話してください」
夜羽に促され、
声は物語を始める。

そちらの時間は大晦日かもしれない。
僕は時間が曖昧なところにいるけれど、
今も元気です。
君も元気だといいな。

今、君には何が残っているだろう。
君は何かと言うと、持っていたものを捨てる人だった。
少しでも悪く言われれば捨てて、
少しでも気に入らなければ捨てて、
僕は君が、物に頓着しないように見えていたけど、
それは多分違うんだと、今は思う。
多分君は、世界中の人に愛されたいとか、
みんなに好かれていたいとか、
そのくらい、みんなと言う化け物に怯えていたんだ。
今もそうだとしたら、
君は一体何を残しているのか、僕はちょっと不安になる。

そのくらい君は、我を通さない人で、
自分の物を惜しげもなく捨てて、
捨てることで、争いも対立もしないことを表していた。
その君に、余計なものを持たせる連中が出ないとも限らない。
僕はそれを不安に思っている。
君は、そういうものを後生大事にとっといて、
君の輝くものを捨ててしまう。
そういう君をしばらく見ていたから、
僕は不安で不安で仕方ないんだ。

僕は、君に声が届くところにいない。
けれど、願うことは自由だから言うよ。
君のところは、きっと大晦日だから、
大掃除と称して、余計なものを本当に捨ててしまうといいよ。
そして、君のもっていた、きれいなものに気がつくといいと思う。
そしたら、君はきっと、望んだようにみんなから愛されると思うよ。

「以上です」
声は語り終えてため息。
「ありがとうございました」
「僕も、捨てられたんですけど」
「ほう」
「今年こそ、捨てるべきものを間違えないで欲しいですね」

テープは沈黙して、やがて停止した。


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