混沌の教室
朝のホームルームがつつがなく終わり、
授業が始まる。
現代国語。いわゆる現国だ。
現代国語の教師は、
みんなにわかって欲しいというのを前面にしていて、
テストも、理解出来ていれば点数が取れるというものだ。
ふるい落とす類ではないということから、
高得点が割りと出る。
今までやったこと、今までやってきた物語で、
現代国語の教師が説明したとおりに理解できていれば、
まぁ、ひねくれた答えはない。
ネネは中くらいの成績を保っている。
現代国語は、復習すればちゃんとした成績が出る。
漠然とであるが、一つの目安の教科かもしれない。
現代国語の女の教師が授業を始める。
「それで、彼はこう思った。彼とは…」
いつものように授業。
他の教科より丁寧かなと思う。
ネネは器屋の声が聞こえるまで、
勉強はおろそかだったし、
ここでちょっと取り戻そうかと考えている。
ネネの小さな目論見だ。
それでも、現代国語の教師はいつものようにみんなに丁寧だし、
変わったことでもしないと、取り戻せないかなとも思えた。
何で今まで、ぐうたらしてたんだろ。
ネネは心の中でため息をついた。
ネネはいつもより丁寧にノートを取ったつもりになる。
赤ペン青ペンオレンジペン。
シャーペンだって走らせる。
筆記の音があちこちから聞こえる。
紙とペンの合わさる音、に、混じって、
カタカタカタと音が聞こえた。
ネネはいぶかしむ。
何かが震えるような音だ。
震えの音は大きくなり、教室内でざわめきが聞こえる。
ネネは震えのもとを見た。
女生徒が一人、震えている。
「どうしたの」
女教師が駆け寄る。
「いやー!いや!いや!」
女生徒は悲鳴を上げて気絶した。
その手には一枚の紙。
教室内が騒然となる。
ネネは動けない。
女教師は女生徒を抱き上げる。
「誰か保険の先生を!」
教室内は混沌になる。
気絶した女生徒。
悲鳴を上げていたこと。
その前に震えていたこと。
ネネは直感で思う。
何かが怖かったのだ。
それは持っていた紙にあったはず。
紙?
ネネはとっさに女生徒を見た。
手に持っていたはずの紙がない。
あれが根源だっだだろうに。
ネネは混沌の教室で立ち尽くした。
もはやテスト前の勉強どころではない。
「友井」
ネネに声がかけられる。
聞きなれた、ボソッとした声。
久我川ハヤトだ。
「ハヤト」
「保険の教師には連絡が行ったらしい」
「そっか」
「友井はどう思う」
ハヤトは意見を求めてきた。
ネネもネネなりに意見をまとめようとする。
「紙が見当たらないんだよね」
「紙?」
「倒れるときには紙を持っていた気がするんだ」
「俺の角度からは見えないんだけどな」
「そっか。あたしの思い違いでなければ、紙が怖かったと思う」
「紙かぁ」
「何か怖いことが記された紙かなと思うんだ」
「友井はそう思うか」
「ハヤトはどう思う?」
「うん、朝の占いのこと、覚えているか?」
ネネはうなずく。
そして、意識を佐川タミに向ける。
「倒れたやつ、現代国語の占いの紙を持っていたような気がする」
「それじゃ、テストの内容を知って怖くなった?」
「俺はそんな気がする」
「気がするで言うもんじゃないよ」
ネネはたしなめる。
それでも怖くなった。
佐川タミの占いが、テストの内容をあてているとすれば。
佐川タミは何かを犠牲にすることによって、なんでも出来るのではないか。
「ハヤト」
「うん?」
「倒れた子が、何を代価にしたか覚えてる?」
「そこまでは覚えていない。何せいっぱいだったからな」
「だろうね」
「それでも一つだけ覚えているのだったらある」
「なに?」
「おじいちゃんを代価にしたのがいた」
ネネの心からさっと血の気がうせる。
倒れた女生徒は保健室に運ばれ、女教師も付き添い、
教室は混沌のまま放置された。
ネネは佐川タミを見た。
タミは何もかも知っているように微笑んでいた。