昭和島


ネネは突然ノイズのない空間に出た。
突風が進もうとするのを、ネネは重心をかけてとどめる。
ネネは周りを見る。
雲が囲んでいる空間。
周りは雲だけれど、さっきのような気象ノイズはない。
地上から雲を見るように、雲がぽっかり空間を囲んでいる。
ネネはそこまで確認すると、
雲が囲んでいる空間を、改めて見た。
島が一つ浮いているような感じだ。
雲に囲まれた、島。
ありうるのだろうか、こんなことが。
ネネは思う。突風で飛んできた自分のように、
雲に囲まれた島があるものだと。
「昭和島、かな」
ネネはつぶやく。
『おそらくそうでしょう』
ドライブが答える。
「行ってみようか」
『行かなくてはならないでしょう』
ネネはうなずくと、突風を操った。
突風はいつもそうであるかのように、ネネに従って吹いた。

ネネは昭和島かもしれない島を見る。
大きな建物が島を覆っている。
大きな建物は、木造らしい。
古い日本を思わせる。
江戸まで古くはないだろうが、
昭和といわれれば、それなりに納得するかもしれない。
ネネは島の周りを旋回する。
飛んでくる人間などは考慮していないのか、
着地できる場所が見当たらない。
どうしたものだろう。
窓があるが、窓を破っていくのは考えたくない。
ネネは考える。
旋回して一周しようというとき、
大きな音が響いた。

遠くから爆音。
大きな音が雲に囲まれた空間に響く。
ネネはとっさに旋回を止める。
ネネの頭にどうする?と響く。
ドライブの声ではなく、ネネの意思だ。
ネネはとっさに上昇する。
突風が上に上がる。
上にあがったネネの下を、爆音を立てて、
戦闘機が通り過ぎていく。
古い日本の戦闘機かもしれない。
ネネは戦闘機の国籍なんて知らない。
それでも思う。
戦闘機大和かもしれないと。
そんな気がした。

戦闘機大和かも知れないそれは、方向を変えると、
また、ネネに向かってきた。
ネネは突風を下に変える。
爆音はまた、ネネを通り過ぎていく。
威嚇だろうか、なんだろうか、
ネネを見定めているのだろうか。
爆撃などはしてこないし、
ネネを見ているのかもしれない。
ネネは戦闘機を見る。
戦闘機はまた、雲の近くで方向を変える。
『あ、あ、聞こえますか。どうぞ』
ドライブではない声がする。
「だれ?」
ネネはとっさにそう反応する。
『戦闘機大和の七海トモマルといいます。聞こえてますか』
「うん、聞こえてる」
ネネは答える。
『よかった。今から着地点を誘導します。僕についてきてください』
ネネの頭に声が響く。
ネネは七海の声に従い、戦闘機大和を追った。
突風を操り、戦闘機大和が下に行くのを追う。
昭和島らしい島の下に、
建物で見えなかったけれど、何か入るらしい穴がある。
戦闘機大和はそこに入っていった。
ネネもあとを追った。

突風の速度をゆっくりと下げるイメージ。
そして、ネネは穴に入った。
そこは格納庫らしい。
爆音のやんだ戦闘機大和がそこにいた。
ネネは突風を止まらせる。
近くで見ると、戦闘機大和は思ったよりぴかぴかだ。
「やぁ、どうも」
上から声がする。
戦闘機大和から、人が降りて来る。
「久しぶりのお客人だね。武器をもっていないか見ていたんだ」
ネネは声の主を見る。
さっき頭に声を出していた本人だと思う。
「改めてこんにちは。七海(ななみ)トモマルといいます」
「あたしは友井ネネ。こっちはドライブ」
「どうも。昭和島へようこそ」
七海はそう挨拶した。
「ここが昭和島」
ネネはそれだけ反応する。
「普段は僕と、映画監督だけがいるんだ」
「映画監督?」
「昭和の映画監督、流山(ながれやま)シンジ。誰も知らない巨匠だよ」
「誰も知らなくても巨匠?」
「そういうこともあるさ」
七海は人懐っこい笑顔を浮かべた。
疑うことを知らない、少年みたいな青年だと、ネネは感じた。


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