神秘性
ネネはいつものバスに乗り、学校に向かう。
いつもの浅海の町並み。
ミハルが言うように、いい天気になるのだろう。
言葉を交わすことが、いつもより気持ちいい気がする。
親とだけなのかもしれないが、
こういう気持ちよさは、捨てたもんじゃないと、
なんとなくそんなことを思う。
ここにドライブがいたら、どんな言葉を言ってくれるだろう。
頭の中を読んで、
頭の中に語りかけるドライブ。
螺子ネズミというのは、みんなそうなのだろうか。
ドライブ以外に螺子ネズミにあったことがない。
ネネは変なことを考えようと思う。
ドライブは螺子ネズミ王国の王家の末裔で、
王族復興のために朝凪の町から浅海の町にやってきた。
ネネは…なんだかわかんないけど力があって、
そのパワーをどうにかすると、螺子ネズミ王国が復興するのだ!
ネネはそこまで考えて、やっぱり変だなと思う。
ネネを選ぶ理由がないじゃないかと。
何であたしだよとネネは思う。
ドライブは、ネネにパワーがあると言っていた。
パワーを使えたことなんてない。
渡り靴とか端末の力ばっかりで、
ネネがどうにかできたことなんてない。
心一つで通り魔を退けたこともあったが、
それだってみんなできることかもしれない。
勇者とか、鋏師とか、
パワーを持っている人ならもっといる。
ネネはやっぱり、なんで自分が選ばれたのか、わからない。
(勇者かぁ…)
ネネは鎧の勇者を思う。
鎧の勇者が友井と呼ぶのだろうか。
眠っているときに冷たくなったそこに、
友井と呼んで引き上げてくれた存在。
(勇者はネネと呼んでいたよね)
勇者は友井と呼ばない。
じゃあ誰だろう。
思っていると高校近くのバス停が近づく。
ネネは降りますボタンを押した。
いつものように歩いて、
ネネは高校にいく。
何か騒がしいなと思う。
テストだからかななどと、ピントの合わないことを考える。
ネネはいつものように校舎に入って、靴を履き替える。
自分のクラスの前が、よりによって騒がしい。
適当に騒がしいところを抜けて、
ネネは自分の席に座る。
テキストを読もうとしたが、なんだか騒がしくて、どうも集中できない。
テキストを開いたまま、顔だけ騒がしいほうに向ける。
「佐川さん、あたしも占って」
「ずるいずるいあたしから」
「テストの解答はあれでいいのかな」
「だって人が死んでるんだぜ」
「そうだよな、俺もペンがなくなってたし」
「すごいよな」
「占ってー」
ネネはぞっとする。
人が死んでいるらしい?
老人を代価にテストを占ってくれとか聞いたが、
本当に死んだのだろうか。
騒がしいそこは騒がしいままで、
確たる情報が得られるわけではない。
現代国語のときに悲鳴を上げた彼女の、
身内が死んでいるかもしれないと考える。
同時に、タミにそんな力がないと思いたがっている。
「佐川様様よね」
「占いもよくあたるし、テストも完璧だったら神様よね」
「佐川様」
「佐川様」
騒ぎの方向が妙だとネネは思う。
佐川様。
タミに神秘性が与えられている気がする。
もうすぐテストが始まる。
ネネは気を取り直して、テキストを読むことにした。
テストが始まる。
さすがに騒ぎの固まりも、席についてテストを受ける。
教室の中に空席が少し。
それについて説明はない。
悲鳴を上げたあのときの彼女も、空席だ。
「忌引きが多いな」
教師がボソッとそういった。
「忌引きなんですか?」
ネネは思わず聞き返す。
一番前の席だから、そういうのはよく聞こえる。
「なんでも、おじいさんが死んだとかどうとからしい」
ネネにさっと冷たいものが走る。
「ほら、テスト始めるぞ」
教師はテストを配る。
ネネは怖いものを感じながら、テストを受けた。
カリカリと走るペンや鉛筆の音。
ネネはいつもよりそれが早く感じた。
みんなの頭の中に解答があるのだろうか。
それはタミが占ったものだろうか。
ネネは負けじとシャーペン走らせた。