学校でハヤトと別れ、
ネネはバスに乗って帰ってくる。
ぼんやり考え事もするが、
バスに揺られて、もやみたいに、わけがわからなくなった。
(お腹がすいてるのかな)
ネネは思う。
とにかく家に帰ろう。
バスの外でパトカーが走っていく。
事件だろうか。
ネネは考えずにバスに揺られた。

いつものバス停に下りて、
ネネは帰ってくる。
玄関のドアを開いて、
「ただいま」
と、ボソッと。
「あらあらおかえり」
ミハルが台所から顔を出す。
「すぐご飯になるわよ」
「わかった」
やっぱりネネはボソッと答える。
「今日はスパゲティよ」
「ミートソース?」
「ほうれん草とベーコン。あっさりしてておいしいわよ」
「へぇ」
ネネは感嘆の声を漏らす。
ミハルは、ふふんと笑った。
「ランチで食べてね、自分でも再現できないかなってね」
「そうなんだ」
「おいしいご飯を作ってもらいたいなら、おいしいところを食べさせることよ」
ミハルはにんまり笑う。
ネネは、見えないけれど、
なんとなくマモルが困った顔をしてるなと思った。
「それじゃ、鞄置いて来る」
ネネはそっと渡り靴も持っていく。
咎めはないが、不思議だとは思っているだろうなと思う。
まぁいい、言われたらそのときだとネネは思った。

二階へ上がり、自室に入ると鞄を置く。
テキストが入っていて重い。
どさっと言う音を聞くと、自分の中のものも何か放り投げた気がした。
渡り靴も部屋に置く。
そして、ネネはそっと呼びかける。
「ドライブ」
無駄箱一号の陰で、ちりりんと音がする。
ネネはそっと歩み寄る。
「ドライブ」
『はいなのです』
頭に語りかけてくる、鈴を転がすような声。
無駄箱一号の陰から、いつもの螺子ネズミが現れる。
頭に丸いアンテナが耳のかわりに。
身体はネズミで、尻尾が螺子になっている。
つぶらな瞳がネネを見ている。
「母さんが蜂蜜買ってきてくれたみたいなんだ」
『蜂蜜ですか』
「角砂糖とどっちがいい?」
『たまには蜂蜜もいいですね』
「ん、それじゃあとで持ってくるよ」
『他に変わったことはありましたか?』
ドライブが問いかける。
ネネは考える。
そして、話しだす。
「占い師かな、同じクラスの佐川タミって子」
『ふむ』
「信者が増えてるような気がして、怖かったかな」
『信者』
「うん、そんな感じがした。佐川様って」
『ふぅむ…』
ドライブは考え込む。
小さな腕を組んでいるらしい。
『人の鎧ですか』
「うん?」
『占い師は自分の身を守るため、人の鎧を作るものがいるそうです』
「ハヤトも言ってたな、そんなこと」
『自分を守る駒であり、武器であり、鎧であると聞きます』
「そうだね、人は使いようによってはなんにでもなるね」
『信仰があるならば、本当に何にでもなるでしょう』
「怖いね」
『怖いです。その占い師が何を狙っているのか…』
「わかんない。けど、テストの解答でみんなの心をつかんでた」
『ネネはテストはどうでしたか?』
「やれることやったよ。後は採点待ちだよ」
『それはよかったのです』

「ネネー」
階下で母が呼んでいる。
「いまいくー」
ネネは大声で答える。
「それじゃ、あとで蜂蜜もってくるね」
『はいなのです』
ネネはばたばたと部屋を出て階段を下りる。
台所で母が、もう一度呼ぼうかとしている。
「ごめん、テストのこと調べてた」
「あらそう、出来栄えはどうだった?」
「わかんない。けどやるだけやったよ」
「なら大丈夫よ」
ミハルは笑う。
「努力する人が報われる。そういう世界であってほしいな」
ミハルは鼻歌を歌いながら、スパゲティを盛り付ける。
「また近くじゃないか」
テレビのある居間から、マモルの声がする。
「なぁに?」
「事故だよ」
「あらやだ」
「でも、けが人は一人だけらしい」
「あらあら」
「なんでも、事前にそこをよけろと、言った学生がいたらしい」
「なにかしらねぇ…」
ネネの頭にタミがよぎる。
きっと学校だけではないのだ。


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