佐川様の拡大
「ネネは明日どうする?」
スパゲティのお皿を置きながら、ミハルがたずねる。
「明日?土曜日だよ」
「うん、午後が空くならどこか行こうかしらって」
「うーん」
ネネの高校は、土曜日は基本的に午前中授業だ。
テストの採点が終わるとは思えないが、
学校にはとにかく行きたいし、
少しテストの見直しもしたい。
午後の予定もなかったし、母についていくのも面白いかもしれないが、
部屋の掃除もしたいと思う。
ネネの中で予定が渦巻く。
どうしようかなぁ。
「さ、たべちゃいなさい」
「いただきます」
ネネはスパゲティを巻いて食べ始める。
あっさりしていておいしい。
しょうゆ風味がする。
「おいしい」
ネネは答える。
ミハルはうんうんとうなずいた。
向かいの席でマモルもスパゲティを食べている。
「おいしいね」
「でしょ?」
「明日の午後が空くなら、みんなでどこかに食べに行くか」
「おいしいお店でもある?」
「ハンバーグ屋さんでおいしいところがあるらしい。同僚に聞いたよ」
「あら、それは楽しみ」
ネネは思う。
こりゃ明日の午後は帰ってこないとな。
「ネネもなんだか、楽しみみたいな顔しちゃって」
ミハルに言われて、ネネはぶすっとした顔を作った。
「だーめ、ネネは顔に出るんだから」
ミハルはころころ笑う。
ネネもなんだかおかしくなった。
後片付けをして、
蜂蜜を持って部屋に戻ってくる。
少量を一つ一つパックにしてある。
コストはかかるのだろうが、
悪くしないですむのかもしれない。
部屋に入ると、
机の上でドライブが何か考え込んでいる。
「ドライブ?」
ネネが声をかけると、ドライブははっと我に返ったらしい。
『ネネでしたか』
「あたし以外にいないでしょ」
『怖い占い師のことを考えていました』
「何か思うところあった?」
『なんと言うかですね』
「うん」
『神がかっているものに対して、怖れを抱くことがあると思うのです』
「まぁね」
『怖れは伝染します』
「怖れ」
『畏怖みたいなものですかね』
「なるほどね」
『ネネはその占い師をどう思いますか?』
「うーん」
ネネは言葉を探す。
「いんちきではないだろうけど、怖いね」
『なるほど』
ドライブはうなずく。
『確かにいんちきではないと思うのです』
ドライブはネネのおいていった、解答のコピーを示す。
『これ、当たっているでしょう』
「わかんないけど、ドライブにはわかるの?」
『代価のにおいがします』
「代価のにおい」
『何かを犠牲にしているにおいがします。小さく大きく』
「そんなこといってたなぁ」
『代価を取れるほどの占い師。これは怖いことです』
ネネはうなずく。
人を殺して占うこともある。
忌引きの多い席。
タミは人を殺せるのか。
占いで人を殺せるのか。
「ネネー!」
ネネは我に返る。
階下から母が呼んでいる。
「なにー?」
ネネは大声で答える。
「ちょっとテレビまで来てー!」
「はーい!」
ネネはドライブにうなずいてみせると、
ばたばたと部屋をあとにして、階段を降りた。
「なにかあったの?」
「テレビテレビ」
ミハルがテレビを示す。
マモルも見ている。
テレビには学生が出ている。
「それでは、その女子高生が、命を救ってくれたんですね?」
「はい、佐川様ですよ」
「佐川様?」
「はい、佐川様が導いてくれたから、事故に死者がいなかったのです」
「その人は、どんな人ですか?」
「代価を払うことで、何でも占う、すごい占い師ですよ」
「そんな方が本当にいるんですか?」
「いるんですよ」
ネネは学生の制服に見覚えがある。
ネネの学校の制服だ。
「これ、ネネの学校の子でしょ?」
「うん」
「佐川様って何?」
「クラスメイトがそんな風に呼ばれてたよ」
「なんだか怖いわね」
ミハルは大げさに震えて見せた。
佐川様が拡大する。
ネネはそんな風に思った。