ドライブ隠し


テレビはそれから、バラエティ特集になり、
佐川様に関する報道は、それで終わった。
「ネネ」
ミハルが声をかける。
「クラスメイトって本当なの?」
ネネはうなずく。
「関わらないようにと思ってる」
ネネは当たり障りなく答える。
ミハルはうなずく。
「怖いことがあったら、教えてね。力になるから」
「うん」
それでもネネは、テストに関することを言えない。
ミハルが大事にしたとして、
佐川様の信者らしいものに、つぶされるかもしれない。
ミハルが何か害になるのは、ネネとしても嫌だ。
ここは隠しておこう。
ネネはそう思い、居間をあとにした。

風呂に入って、ネネは自室に戻ってくる。
パジャマに着替え、髪をタオルドライする。
ドライブが机の上で蜂蜜をなめている。
「おいしい?」
『おいしいのです』
ドライブが頭の中に語りかけてくる。
『たっぷりいただきます』
ドライブは小さなひとつつみの蜂蜜でいっぱいらしい。
「身体洗わなくても平気?」
『たまには浴びたいですね』
「毛づくろいとかしないの?」
『しますけれど、蜂蜜のぺとぺとが…』
ネネは失念していた。
ドライブはじかに蜂蜜をなめているのだ。
手や口周りがべとべとだろう。
「桶にお湯持ってくる」
『すみませんです』
「いいって」
ネネは言い残すと、風呂場へかけていった。

風呂のお湯を桶に入れて、
ネネは部屋に戻ってくる。
ミハルが不思議そうに見ていたが、
ネネはだまって部屋に戻ってきた。
下手に言い訳するよりはいいかもしれない。
蜂蜜をなめ終わったらしいドライブをお湯に浸す。
こしょこしょとあちこちさする。
『くすぐったいのです』
「口周り自分で洗ってね」
『はいなのです』
一通り洗って、タオルで拭く。
石鹸までは行かないが、
ドライブは一応ぴかぴかドライブになった。
「こんなものかな」
『ありがとうなのです』
ドライブはぺこりとお辞儀した。
ネネはうなずき、部屋を出ようとする。
桶のお湯を捨てに行こうとすると、
ドアの向こうに気配。
すばやくドライブに目配せする。
ドライブはすばやくベッドにもぐる。
「ネネ?」
ドアの向こうからミハルの声がする。
「なに?」
「開けていい?」
「うん」
ドライブが隠れたのを確認すると、ネネはドアを開く。
「あら、なにもいないわね」
肩透かしを食らったように、ミハルは言う。
「何もって何?」
ネネはつとめて平静に問いかける。
「きっと何か拾ってきたのよって、お父さんと賭けをしていたんだけどね」
「なんでまた?」
「お湯なんか持って行ったから、きっと洗うのと思っていたのよ」
「ふうん」
「わかった、いないのね」
「うん」
うそをつくのは気が引けるが、
ドライブを探されても困る。
ネネはうそをつくことにした。
「それじゃね」
ミハルはそういうと、階段を降りていった。
ネネは大きくため息をついて、
お湯を捨てに洗面台に行った。

ネネがまた戻ってくると、
ドライブはベッドで運動をしていた。
端から端まで走ったり、転がったり、ジャンプしたり。
見ているだけで忙しい。
『食後の運動なのです』
ドライブは頭に語りかけてくる。
「やっぱりダイエットとか考える?」
『うーん』
ドライブは立ち止まって考える。
『突風に乗れなくなったら困るのです』
「あたしが乗れてるでしょ」
『それもそうですけど、乗れなくなったら困るのですよ』
「なんか基準でもあるの?」
『そういうわけじゃないですけど』
ドライブは考える。
そのドライブをネネはつついて転がす。
『ありゃ』
「すきだらけだぞ」
『それは困ったのです』
ネネは笑う。
ドライブも笑っている。
ネネは人差し指でドライブをぐりぐりする。
『くすぐったいのです』
ドライブはころころと転がった。


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