解体屋


ネネは朝凪の町を歩く。
いつもの朝焼けの空。
怖れることを知らない、生まれたての空。
見慣れているのに、日によって色彩の違う、
朝焼けの空。
この色彩を花で表現できないだろうか。
何で表現したらいいかな。
ネネは頭の中で花を思い浮かべる。
思い浮かべただけの花は、はかなく脆い。
印象だけを残して次の花に取って代わられる。
ネネの頭の中で、朝やけに似た花が出ては消える。
『ネネ』
「うん?」
『花畑みたいですね』
「そうかな」
『そうなのです』
ネネはうなずく。
そして、線を見定めた。

朝凪の町の道路には、
基本的に車が通っていない。
国道とはまた違うが、広めの道路の歩道を歩く。
朝焼けが空一面に見える。
邪魔するものが極端なほどに少ない。
大きな木もなければ、電線も少ないし、
大きな建物も少ない。
線はその道路に伸びている。
ネネはちょっと考える。
たとえば誰も通らないこの道で、
バイクみたいなのを最高速度まで出したら、
それは気持ちいいかもしれないと。
危ないかもしれないけれど、
想像するとちょっとワクワクした。
『突風を出しますか?』
「いや、考えただけだからいいよ」
『それは残念』
「ドライブは乗りたかった?」
『ネネがいいならいいのです』
「ふぅん」
ネネは気のない返事をして、また歩いた。

こぉん、こぉんという音が聞こえた気がする。
遠いような近いような。
ネネはあたりを見渡す。
前方の左手に、錆色の山が見える。
ネネの線はそこを目指していて、
多分音はそこからだと思う。
こぉんこぉん、響いている。
何かに反響しているようにも聞こえるし、
何かを叩いているようにも聞こえた。
ネネは錆色の山を目指して歩いた。

近づいていくと、錆色の山は何かのスクラップらしい。
錆びた部品が山になっていると、ネネには見えた。
錆びた山に囲まれるようにして、家らしいものが一つ。
看板が一つ出ている。
解体屋と書いてある。
線はそこに入っていっていた。
ネネは解体屋に敷地に入る。
あらゆるスクラップがあるといわれたら、納得してしまいそうだ。
ネネの来た方向からは錆色の部品の山だったが、
そのほかにもさまざまの部品が解体されて転がって山になっている。
「すごいや」
ネネは感嘆した。
「おい、嬢ちゃん」
ネネの後ろから声がかかった。
男の太い声だ。
ネネはあわてて振り返った。
「何か用事があるのかい?」
つなぎを着てサングラスをかけた、怖そうなおじさんだ。
体格はかなりいいし、なんだか怖い。
ネネは逃げたくなった。
殴られるのかもしれない!
「あの、その」
ネネはしどろもどろになる。
「ああ、これじゃ怖いか」
男はサングラスを外す。
そこには、つぶらな目があった。
瞬きすると、なんだか小動物みたいだ。
「おじさんは解体屋のジョーだよ」
「解体屋のジョー?」
「ジョーでいいよ」
ジョーは瞬きした。
ちょっと夢見る目に見えなくもない。
「武器を作りに来たようにも見えないしね。嬢ちゃんは何をしにきたんだい?」
「ええと…線を辿って」
「線か、久々に聞いたな、そんなこと」
ジョーはサングラスをかけた。
怖く見えるが、サングラスの下を知っていれば怖くない。
「ここは解体屋、見ての通り解体してるのさ」
「武器をつくりにって言うのは?」
「ああ、このあたりは戦闘区域に近くてね」
「レディもそんなこといってた」
「うん、解体部品から武器を作ったりするのがいるのさ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
ジョーは部品の山を見る。
「もとは武器なんかじゃなかったのに、武器に生まれ変わるなんてな」
「ジョーはどう思ってる?」
「俺は部品を解体するだけだけどな」
「だけど?」
「傷つけるのは嫌いかもしれないな」
ジョーは鼻を軽くすすった。
ジョーはきっと、見てくれで損をしていると、ネネはなんとなく思った。


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