何のために


たたたんと銃声が聞こえる。
ネネはあたりを見る。
近くに大きな影が出来ている。
大きな建物が近い。
風景から見て、多分ネネの通う学校だろうと思う。
ネネは息を整える。
銃声が聞こえる中を走るのだ。
疲れたら蜂の巣にされるかもしれない。

そもそも、何と何が戦っているのかわからない。
リディアは悪い人に思えなかったが、
悪人でなくても戦うことはある。
粘土細工師の森が巻き込まれたように、
いろんなものを巻き込んでいく戦闘区域。
一体何が戦っているのだろう。
リディアに聞けばよかったと、いまさらになって思う。
聞いたところで、何が出来るわけでもないけれど。

「いたぞ!」
ネネの背がびくりと伸びた。
あわてて転がっていた庭のすみに隠れる。
丁度小さな木があって、
ネネを隠してくれたらしい。
多分見えていないとネネは思う。
ネネは息を殺して何が起こるのかを見ていた。

「裏切り者!」
声がする。
「占いは絶対で神聖なのだ!」
「裏切り者には死を!」
口々に走る声。
ネネから見えない角度で、銃が撃たれたらしい。
たたたんと音がする。
火薬のようなにおいがする。
「お前ら!目を覚ませ!」
悲鳴のような声がする。
追われている裏切り者なのだろうか。
「あの占いは、お前らを食っているんだ!」
悲鳴のような声は、意味不明のことを言う。
食っている占い?
ネネの脳裏に何かが思い出されそうになる。
「みんな何かを食われているから、あたるんだ。神聖なんかじゃない!」
悲鳴のような声が訴える。
訴えは多分届いていない。
「もう、勇者に頼るしかないんだ!わかるだろ!」
勇者。
ネネの脳裏に鎧が描かれる。
追っ手のほうから声がする。
「死を」
追うものが一言。
たたたん。
そして、何かが落ちるような音。
「戻るぞ」
ネネは息を殺して人の気配が消えるのを待った。
多分まだ渡り靴の警報がなる。
近づいてはネネの命が危ない。
裏切り者とされた人は、多分死んだ。
ネネは何も出来なかった。

ネネはあたりが静かになって、這い出す。
かん、かん、と、渡り靴がなる。
ネネはそっと、さっきのやり取りのほうに近づいていった。
人が倒れている。
これは、死んでいるのだろうか。
遠くで爆音が聞こえる。
ネネは死体らしいそれに手をかける。
目は見開かれている。
ネネはそっとまぶたを閉じさせた。
触れたそれは、まだあたたかかった。
「生きてるのかな」
『死んでいます』
ドライブがネネのつぶやきに答える。
『これが死ぬということです』
「戦いが何を中心にしているかは、少しわかった気がするよ」
『そうですね』
「占いを神聖とするのと、その反対かな」
『そして、この彼は裏切った』
「埋めるわけには行かないけれど、魂が安らかになりますように」
ネネは祈った。
スタイルはよくわからないが、祈った。

「占い、か」
ネネは何か思い出そうとする。
それは学校に中心をおいている気がした。
ざぁと風が吹く。
ネネの野暮ったい髪が風に吹かれて揺れる。
勇者に頼るしかないといっていた。
勇者も学校に向かったのだろうか。
それとも、反占い組織らしいものと一緒にいるのだろうか。
火薬のにおいがする。
朝凪の町は戦場になってしまうのだろうか。
みんないて、平穏だった数日。
朝凪の町を、こんな死体がごろごろする町にしたくない。

ネネは走り出す。
かんかんかん!
渡り靴がなる。
サイレンのようだと思う。
危険危険とわめいている。
構うものか。
ネネは学校を目指す。
いつも通いなれたバス停とは違う道から、
学校にアクセスを試みる。

学校が見え出したそのとき。
不意にネネに向かって光が吹き付けてきた。
ネネは吹き飛ばされたような感覚を持った。


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