勝負


晩御飯を食べる。
混ぜご飯をもくもく食べる。
ネネは正直何の味もわからない。
電波ジャック。
何を話していいかわからないし、
何が起きているかを伝えることも出来ない。
「一体どうなってるんだろうなぁ」
「さぁ、ねぇ」
「物騒なことがないと、いいけどなぁ」
「そうねぇ」
親もあまり立ち入ってこないのが救いだ。
ネネは混ぜご飯を食べきる。
「ごちそうさま」
ネネは言葉少なにそれだけ言うと、台所で食器を洗った。

風呂に入り、ネネは考える。
今度の朝が勝負だとネネは思う。
教主やタミが、何を望んでいるにしろ、
やりすぎなのだとネネは思い直す。
たとえば、彼女らが世界を完全にするためにしているのにしろ、
行き過ぎた代価を取って占っているのだと思う。
辻がいい例だ。
バーバのもとに引き取られていったけれど、
なくした家族が帰ってくるわけでない。
「千の線」
ネネは湯船でつぶやく。
昔、占い師が朝凪の町にいて、
勇敢なる者が占い師を倒し、
占い師は千の線になったといっていた。
千の線は教主に宿り、
教主は代価と力を得て、空に向かう。
操られているのかもしれない。
それこそ、千の線が絡まる人形。
千の線は、多分ばらばらに町に張り巡らされていたのだろう。
それが空に向かってまとまるのを狙う。
占い師のうらみも、レッドラムの線とともに断つ。
そうしないと、多分レッドラムの線がはらむ、通り魔にやられる。
通り魔は怖い。
容赦なく意識をかき乱したり、
または自然現象の大きなのを作ってえぐったりする。
勇者とともに突風で飛ぶ予定だが、
勇者が防いでくれるのも、限界があるだろう。
少ない手数でしとめないと。
突風の限界でみんなが落ちる。
ネネの手をすり抜けて落ちていくイメージ。
ネネは嫌だと思った。

ネネは風呂を上がり、
渡り靴を取りに玄関に行き、
台所で角砂糖を失敬する。
たんたんと階段を上がり、部屋に戻ってくる。
「ドライブ」
『ネネ』
ドライブはベッドで転がっていた。
「角砂糖持ってきたよ」
『ありがとうなのです』
ネネはドライブに角砂糖を押し付け、
ベッドのはしに腰掛けた。
「ドライブ」
『はい?』
「何であたしなのかな」
ネネはポツリと独り言のようにもらす。
『ネネがネネだからです』
「答えになってないよ」
『質問にもなっていません』
「そうだけどさぁ…」
『迷わないことですよ』
ドライブが頭の中で優しく語りかける。
『約束があるじゃないですか』
「約束?」
『久我川ハヤトに絵を描いてもらうでしょう』
「ああ、うん」
『約束があれば、その約束のために動けるのですよ』
「そうかな」
『ネネは約束を守る。生き残る。ネネの納得する形で終わらせる』
ドライブはネネにいいように組み立てていく。
『心によどみがないネネを、久我川ハヤトはわかるのですよ』
「そうかな」
『美しさを描く人間は、そういうのを見抜くと思うのです』
「少しわかる気がする」
真剣で澄んだハヤトの目を思い出す。
「ひたむき」
ネネは言葉にする。
ひたむきってやつなのだろうと思う。
それから、一途。
芸術家は変わった人が多いというけれど、
ハヤトは多分、ぼそぼそつぶやきながらも繊細なのだろうと思う。
『ネネは線を操る潜在能力があります』
「何度も言われたけど、線に引っ張りまわされてる気がするよ」
『それでも線は、ネネの心で変わっています』
「前にのびてるだけのような気がするけど」
『ネネが目指すべき方向にいつだって線はのびているのです』
「間違ったりしていないのかな」
『ネネの線は間違えていません』
ベッドの上でドライブが跳ねる。
『ネネは間違えていないと私が保証します』
ネネは笑った。
頭の中でドライブも笑っている。
『さぁ、明日の朝が勝負ですよ』
「うん、そうだね、寝ようか」
ネネは机の上にドライブの寝床を作る。
ドライブをそっと導くと、ネネもベッドに入って眠った。


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