声が聞こえる


ネネは夢を見る。
森の中にネネはいた。
ものすごい木々がむくむくと生えている。
あの公園だとネネは思った。
粘土細工師の公園。
神主の姿に鈴をまとった、粘土細工師。
あの公園だと思った。
ネネはあたりを見渡す。
足元で粘土細工がわぁわぁ言っている。
無垢な赤ん坊のような。
「心を開かれよ」
粘土細工師の声がする。
ネネの死角にいるらしく、姿は見えない。
「運命はいつでもそばにある」
ネネはうなずく。
「変えるのは、おぬし次第だ」

不意に場面が変わる。
こぉんこぉんと音がする。
解体屋の音だとネネは思う。
目を開いたような感覚を持つ。
そこは解体部品の山になった、解体屋だった。
アコーディオンの音がする。
「武器のいらない世界がいいですね」
音編みの女性の声がする。
「音だけを残してしまうような、そんなことのない世界がいいですね」
ネネはうなずく。
「解体した部品が、武器になるのは、おじさんは嫌なんだ」
解体屋のジョーの声がする。
「傷つけたくて生まれるものは無いよ」
ネネはなんとなくわかる気がした。
道具は、持ち手によって変わるが、
最初から悪なわけではないのだろう。

場面が変わる。
バーバの家だ。
辻マナとバーバが日向ぼっこをしている。
マナはみたこともないほど穏やかな顔をしている。
「大丈夫ですよ」
バーバがネネのほうを見る。
「マナちゃんはそっちに帰れませんけど、大丈夫ですよ」
バーバが微笑む。
マナも微笑む。
「マナちゃんは、こっちで元気にやっていけますよ」
バーバがうなずく。
ネネもうなずいた。

場面が変わる。
レディ・ジャンク・アーツにやってきた。
レディがネネの視線に気がついたらしい。
レディは微笑む。
「端末が役に立ってよかったよ」
レディはにんまり笑う。
「いつまでも大事に使ってくれると、うれしいな」
ネネはうなずく。
「朝凪の町のことを、忘れないで欲しいよ」
ネネは意味がわからない。
「忘れないでね、お願い」
ネネは心配させまいとうなずく。
レディの目には、光るものがあった。

場面が変わる。
看板街だ。
看板が所狭しと並んでいる。
視線をさまよわせると、パラガスがいた。
「ネネ」
パラガスが呼びかける。
「忘れないで欲しいでがす」
ネネは意味がわからない。
「この町をつなぐことがなくても、忘れないで欲しいでがす」
ネネは当惑する。
パラガスは続ける。
「いつまでも朝凪の町に来れるものじゃない。きっと終わりが来るでがす」
ネネはそこに思い当たり、戸惑う。
「線は全て繋がっているでがす。線の行先が朝凪の町を通らないこともあるでがす」
ネネはどうしていいのかわからない。
「わすれないで、でがす」
パラガスは微笑んだ。

場面が変わる。
国道付近の荒涼とした風景だ。
鋏師と器屋がいる。
リディアもたたずんでいる。
「待っているよ。友井さん」
鋏師が声をかける。
「今度の朝凪が勝負だ。レッドラムの線を断って」
ネネはうなずく。
器屋が続ける。
「何をしようにも後悔は付き物です」
ネネはうなずく。
「それでも立ち向かえるあなたの生き方も、悪くないですね」
器屋は皮肉っぽく笑った。
「あなたの実体がここに来るまでもう少しですね」
ネネはうなずく。
器屋もうなずき、続ける。
「出来れば理の器を見てみたかったと思うのです」
器屋は苦笑いする。
「私も後悔は山ほどあります。それから逃げようとも思ったこともあります」
器屋はネネの夢の中で語る。
「逃げられず彷徨い、後悔が付き物と思うまでに時間がかかりました」
リディアはネネに向かって手を振る。
リディアは特に言いたいことはないらしい。
そして、器屋はよく通る声で宣言する。
「あなたに武運があらんことを!」

ネネはそこでふっと真っ暗になる。
ネネは目を閉じていたと感じる。
目を開いたとき、そこはありきたりのネネの部屋だった。
朝が来ている。
勝負の朝だ。


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