迷って悩んで


『おはようなのです』
ドライブの鈴を転がすような声が、頭に響く。
「うん、おはよう」
ネネは起き上がり、伸びをする。
『ネネ』
「うん?」
『覚悟は出来てますか?』
ドライブがたずねる。
いつになく真剣な問いのようだ。
「わからない」
ネネは答える。
「怖いことからは逃げたいこともある」
『はい』
「どこまでも自分の正義みたいなのを貫けるとも思わない」
『はい』
「真の平和がもたらされるような、行動をしているとも思いにくい」
『はい』
「それでも」
ネネは言葉を区切る。
「それでも勝負に出るよ。迷いがあっても何でも」
『それはそれでネネらしいのです』
ドライブが安心したように言う。
「それじゃ着替えるよ」
『寝床もしまっておくのです』
ドライブは机の端っこで、寝床の帽子を片付けだした。
ネネも着替える。
いろいろ考えたが、いつもの制服を着て行くことにした。
野暮ったいブレザー。
短くしていないスカート。
髪を梳かして、ひとつにまとめる。
野暮ったい端末を手首にはめて、
渡り靴を履く。
鋏師の鋏もポケットに入れた。
眼鏡も気持ちだけ、びしっと決めてみる
ネネの戦闘準備らしいものが整った気がする。
『ネネ』
「うん」
ネネは寝床を片付け終わったドライブを手から導き、肩に乗せる。
『覚悟は出来てますか?』
ドライブが同じ問いをする。
「愚問だね」
ネネはかっこつけてみる。
ドライブが頭の中でころころ笑った。
「行くよ」
ネネは端末のエンターキーを押す。
目の前に光の扉が現れる。
ネネはためらいなく光の扉に手をかけ、開いた。

光の渦がネネを取り巻き、ひいた。
ネネは目を開く。
そこは荒涼とした国道。
空を見れば朝焼けの空。
風はほぼなく凪いでいる。
朝凪の町だ。
間違いなくここにきたという感じがする。
「来たな」
ネネの横から声がする。
聞き覚えがある。リディアの声だ。
ネネがその方向を向けば、
夢と同じように、鋏師と器屋とリディアがいる。
「勇者もまもなく来るでしょう」
器屋がよく通る声で言う。
「鋏は忘れず持って来ましたか?」
鋏師が言うので、ネネはポケットから鋏を出す。
鋏師はうなずいた。
「正義の味方かい?」
リディアが誰というわけでもなくつぶやく。
多分ネネや勇者の行動に対して言っているのだろう。
「あたしら次第ですよ」
ネネは以前リディアに言われたことを、改変して答える。
あんたら次第といわれた、それを。
リディアは、にやりと笑った。
「いい目をしてるな。迷って悩んだ末の目だ」
リディアはネネをそう評する。
「今でも迷って悩んでます」
ネネはそう答える。
「いまさら変えられることもないだろう」
器屋が言う。
ネネはうなずく。
「最後まで悩んで迷うがいいだろう」
「そうだね、そうかもしれないね」
「そして、いやがおうにも答えを出さざるをえないときが来る」
器屋はネネを見た。
ネネはうなずく。
「そのときはそのときだよ。あがいた果ての答えを出すよ」
ネネは続ける。
「かっこ悪くても、勇者になれなくても、あたしはあたしの答えを出すよ」
器屋は満足そうにうなずいた。
鋏師がニコニコ笑っている。
リディアは低く口笛を吹いた。
『みんなネネを応援しているのです』
頭の中でドライブが話している。
『ネネは一人じゃないのです。みんなもいるし、私もいますです』
ネネはうなずく。
今まで出会ってきたみんながいる。
ネネの後ろに、光がある感じがする。
ネネが振り返ると、そこには光に包まれた鎧の勇者がいた。
今来たところなのだろう。
「待たせましたか?」
「今来たところだよ」
「そうですか」
くぐもった声が、ちょっと安心したような感じをにじませる。
「それじゃ、行こうか」
「はい」
勇者が国道の真ん中に向けて歩き出す。
「それじゃ皆さん、いってきます」
ネネは高らかに言うと、国道の真ん中向けて走り出した。


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