守りたい
『こちら七海!損傷なく無事!』
七海の声が聞こえる。
ネネは空いているほうの手を振った。
『一度格納庫に戻る』
七海はそう宣言すると、旋回して格納庫を目指したらしい。
戦闘機を操ることが出来るもの。
悪くすれば、昭和島をそのまま壊しかねない。
ネネはそんな印象を持った。
ネネは気を取り直して突風を操る。
あわてて戦闘機の軌道を曲げたが、
それをやっている間にタミの姿を見失った。
中にいるのだろうか。
昭和島に乗り込んだのだろうか。
理の器のために壊しかねない。
それは多分間違ったことだ。
平和的に解決するような印象が薄い気がする。
ネネは七海の格納庫に向かった。
そこからのほうが多分いい。
格納庫に突風で入り込み、
ネネと勇者はようやく地に足をつく。
ネネは勇者と手を離す。
「さっきはどうも」
戦闘機を降りる七海が声をかけてくる。
「佐川さんを見失って」
「佐川さん?あれは佐川さんというのかい?」
「多分、見間違いでなければ」
「佐川なんというんだい?」
「佐川タミ。多分占い師で教主」
「多分?」
「本来ならクラスメイトです。でも」
「本来なら、ねぇ」
七海が難しい顔をする。
「クラスメイトは戦闘機の軌道を片手でかえるのかい?」
「はじめて見ました」
「だろうね」
七海が先にたって歩き出す。
「やつの狙いはなんだい?」
「多分、器です」
ネネが答える。
七海は何か考えている。
「昭和島を作るときに、ベースに何かを使っているとは聞いた」
「多分、それじゃないかな」
「島を作る器をどうして?」
「それが理の器というものだったら、理を変えられると思うんです」
「なるほど、それが目的なわけか」
階段を上がり、昭和島の中にはいる。
畜産区域は相変わらずのんびりとしているし、
畑は収穫を待つ野菜があるし、
それを制御している仕掛けも、いつもどおり動いている。
「俺は嫌だよ」
七海がポツリともらす。
「この島を壊されるのは、嫌だよ」
鶏が鳴いた。
「今まで育ててきたものを奪われるのは、嫌だよ」
七海は鼻をすすった。
ネネは声がかけられない。
奪うのがタミのやり方だと思っているから。
タミはあれだけの力を持って、
なおも理を変える器を欲している。
それは譲ってもらうというものでないとネネは思う。
七海の戦闘機を片手で操って見せた。
あれだけの力を持って、なおもほしいもの。
ネネには見当もつかない。
「流山さんが無事だといいけど」
七海が気を取り直して歩き出す。
昭和島の建物の中にはいる。
床はぎしぎしとなる。
以前よりギイギイと鳴るのは、多分勇者がいるからだ。
「なんだか懐かしい」
勇者がポツリとつぶやく。
「勇者はここから来たの?」
ネネは問いかける。
勇者は勇者である以外の記憶をなくしたと聞いている気がする。
「なんだか懐かしい」
勇者は繰り返す。
「何でだろう。来たことがないのに、心の芯から懐かしいんだ」
「流山さんといい友人になれるかもね」
ネネはそんな答えをする。
「流山さん」
「映画監督で、ここを作ったおじさん。昭和にかけるんだってさ」
「流山シンジ」
不意に勇者がフルネームをつぶやく。
「勇者、知ってるの?」
「いや、なんだか頭から出てきた」
「勇者の記憶にきっとあるんだよ」
「そうかな」
「昭和島のことか、映画監督のことかは知らないけど」
「わかりません、でも」
勇者は遠くを見るようなしぐさをする。
フルフェイスのかぶとで、視線はわからない。
「ここを強く、守りたいと思うのです」
「勇者として?」
ネネが問い返す。
勇者は少し考え、
「わかりません」
と、答えた。
「行こう、勇者」
ネネは勇者のガントレットをつかむ。
「とにかくここを守るんだ。記憶は後からついてくるよ」
「はい」
勇者は素直に答える。
ネネはそれでいいと思う。
わからないなりに、みんな動いている。そういうものだと。