瓦礫の町


植物に覆われた瓦礫が、
赤い花の瓦礫が、
ゆっくり朝凪の町に下りてくる。
何事かと出てきた住民が空を見上げている。
戦闘機が旋回している。
ゆっくり瓦礫が下りていく。
町がどんどん近づいてくる。

やがて、ごとっと音がして、
昭和島の瓦礫が、町まで下りる。
幾万の花を抱いた瓦礫は、
大して町を傷つけることなく、
朝凪の町におさまった。
ネネは瓦礫から下りる。
大小さまざまの瓦礫が、
赤い花をともにして、あちこちの路地や大通りに、
ゆっくり落ちてきている。
ああ、朝焼けの空のようだ。
ネネはそんなことを思う。
桜を濃くしたような感じもするし、
そうでない赤い花なのかもしれない。
何の花かは知らない。
ドライブが導いてくれた花。
鮮やかな花だ。

「教主様」
「教主様」
タミのもとに、あのときの信者らしいものが集まる。
タミは顔を教主の顔に似せる。
タミにはもう、力はない。
占いで代価を得ることなど出来ない。
「神は去った。私は神との線を断たれた」
タミはきっぱりと信者に向けて言う。
「戦闘区域を解除しなさい」
タミはきっぱり宣言する。

ネネはぼんやりと、タミが教団らしいものを解散させるのを見ていた。
「これでいいのかな」
ネネは誰にというわけでもなく、問いかける。
「いいんだ」
ハヤトが答える。
「生きて生きて生き抜いて、だろ」
ハヤトがにんまり笑う。
ネネはハヤトをじっと見つめて、
そのすぐあとで目をそらす。
なんだかずっと見ていたかった。
けれど、なんだかそれは恥ずかしい。
「おや」
よく通る声がかけられる。
「無事だったんですね」
「まぁね」
器屋の声に、ネネはこたえる。
腕を上げようとしたら、痛い。
そういえば壁にしたたかに打ち付けられたんだった。
「理の器はどうなりました?」
「あー、どうなったかな」
ネネはドライブの力にびっくりして、
理の器のことを、よく覚えていない。
「もしかしたら瓦礫のどこかにあるかも」
「なるほど、探しましょう」
器屋は歩き出す。
歩き出して、ぴたっと止まる。
「お似合いですよ」
器屋は微笑むと、瓦礫の向こうに行ってしまった。

「友井さん」
鋏師がネネを見つけてやってきた。
「あ、鋏師」
「線は断ったんですね」
「おかげさまで、ありがとう」
ネネは鋏を取り出す。
「役に立ててうれしいですよ」
鋏師は鋏を手に取り、切れ具合を見る。
「すごいものを断ったんですね」
「そうかもしれない」
「鋏師の家宝にしますよ」
鋏師はにっこり笑って、どこかへと駆けていった。

「いた!」
聞き覚えのある声。
「友井さん、久我川君も!」
辻マナの声がする。
「無事なんだ無事なんだ、ほんとによかった!」
マナは昔から想像できないほど、元気にネネたちの周りで騒ぐ。
本来あるべきマナなのだろうか。
「おかげさまで、無事だよ」
ネネは微笑む。
ちょっと口の中に鉄の味がする。
「バーバが心配しなくていいって言ってたけど、心配だった」
「うん」
バーバはこの結果を知っていたのかもしれない。
ドライブのことも、ネネが選ぶことも、
全部わかっていたのかもしれない。
「レディが早く呼んできてっていってた」
「レディが?」
「勇者も呼んできてって」
「ハヤトも?」
「うん、とにかく急ぐみたい」
ネネは首をかしげる。
ハヤトも首をかしげて、マナについて走り出した。

赤い花の瓦礫に混じって、
レディの大きな左腕が見える。
「あ、きたきた、おーい」
レディが呼んでいる。
「端末端末」
レディが手首あたりを示す。
ネネはなんとなく手首の端末を見る。
端末の表示は、なんでだか点滅している。
いつもと違うなとネネは思う。
「早く早く」
レディはこのことを言っているのだろうか。
ネネはレディに駆け寄る。
なんとなく、予感は、ある。


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