きりとる
アキは、桜通りの残骸を、
50号パイパスのほうへと走る。
50号バイパスは、昔、国が作った道で、
国道50号線という。
桜通りと50号は、とある工業高校の近くで立体交差している。
さすがに国道となると、
手入れがそれなりに届いていて、まだ道路としては生きているようだ。
地球のためという謳い文句のエコカーなどが走っていて、
一応交通の便が確保されている。
花術師の感覚は、
ここからそう遠くないところに、
植物の芽吹く感覚があることを示している。
どこだ、と、アキは探る。
流れる植物の感覚。
あまり使いすぎると、花毒耐性がついていても、精神上よくない。
アキの感覚と、植物の感覚が融合しつつある中、
アキは一点をとらえた。
国道50号線と桜通りの交差するその真ん中に、
小さな芽が今まさに、そこから生まれようとしているのを。
アキは、植物の感覚を遮断する。
間違いない、あれに向かって桜通りの桜の感覚は流れていた。
あれ、から、桜の花が咲くはずだ。
狂気の花毒。
まずはあれを断たねばならない。
アキは、駆ける。
エコカーのそれなりに走る中を、
アキは跳躍し、疾走し、一点、その桜の芽をとらえ、鋏を構える。
ピンク色の蕾を認める。
アキの目の前でその桜の芽は、成長をしようとしていた。
蕾をほころばせようとしていた。
アキは、その芽の根元から、大きな鋏で断った。
植物は断っただけでは死なない。
だから花毒耐性をもった花術師がその処理をしなくてはならない。
薬を切断面に塗り、
植物がその節を使えないようにする。
使えなくするだけでも、しばらくは効果があるだろう。
アキは、二級花術師の資格を持っている。
花術師になるには、
先天でも後天でも、花毒に対する耐性がないと、まずなれない。
アキは、先天的に花毒耐性ができていて、
植物の感覚を読む術も早めに飲み込んだ。
植物の感覚の歌も、感覚の集中しようとしている場所も、
大体が読み取れるようになった。
二級花術師の資格でならば、大体できることはちゃんとできている。
アキは、桜の芽を薬漬けにする。
サンプルとしては、必要とされる植物。
花も咲かないその芽を、どこかの研究施設は欲しいという。
アキは、とりあえず仕事を終える。
花術師としての、仕事を。