呪術的な


アキは作業を終え、いつものように歩き出す。
花毒の脅威にさらされるのもいつものこと。
アキのような花術師がやらなければいけない仕事。
それでいて、あまり感謝されない仕事。
花が咲いてしまったという怯えの混じった依頼を受けて、
花がなくなったら、感謝の言葉はない。
それが当たり前というように。
アキは感謝されたいわけではない。
感謝されたくて花術師になったわけではない。
ただ、向いていたんだろうなと思う。
向き不向き。そういうことなんだろうなと思う。

アキは国道でバスに乗る。
エコのエンジンを使っているという、静かなバスで、
アキは物思いにふける。
流れていく緑、そして緑。
昔は、こんなに緑が流れていくのは、
田舎ののどかな風景だと思われていたらしい。
のどか、どこがとアキは思う。
旧首都のトウキョウなんてひどいものだ。
いまや花毒耐性があっても、
重装備でないと花毒で植物になってしまうというのに。
緑のどこがのどかなものか。
世界は植物との戦いで生きていて、
植物を力でねじ伏せて、そこから得られる種を食べて人間は生きのびている。
緑は戦いの色。
終わることなき呪いの色。
花術師はある種の呪術師に見えるのかもしれない。
だから感謝はされないし、
植物との戦いに赴くのは、至極当然に見えるのだろう。

工業高校前で乗ったバスは、
駅へと向かう大通りに出る。
比較的でこぼこした道を、バスはガタゴトとなりながらも危なげなく進む。
揺れはゆりかごのごとく。
エコバスは走る。
アキと運転手以外誰もいない。
日光がきれいに窓から入ってきていて、
それはちょっとした祝福のようだとアキは思った。
憎い植物も祝福している。
それは、雨もそうなんだろう。

では、と、アキは思う。
こんな事態を引き起こしたという、
あの大災害は、なんで起きてしまったのだろう。

大災害。
それは世界規模で起きた大きな災害で、
それはもう、自然災害が全部起きたと思ってかまわない。
そのあと人災が重なって、
そこに花毒が生じた。
どこかの宗教家なんかは、人間は緑の中に帰るべきとか言ってたなと、
アキは思い出す。
そいつがちゃんと緑に帰れたのかどうなのか、
アキはあまり気にしないし、知らない。


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