主義主張


アキは窓口で、桜の花の薬漬けと、手続きの書類を書いて提出する。
程なく処理は済むだろうし、
書類というアナログな物をいまだに使っているのは、
どうにも水戸くらいのものじゃないかとアキは思う。
それでもアキは、書類手続きに慣れてしまっているし、
いまさら電子処理とかいわれても少しだけ困る。
なんだか面倒だ。

アキは市役所の木漏れ日を見上げる。
水戸はどこ行きたいんだろうかと、少しだけ考える。
主義も主張も、分権に成功したところとは、
どうにも違う町。
時代に置いてけぼりかもしれないけれど、
それなりに時代の中に居場所を見出しているような。
アキは植物の茂る市役所で、ぼんやりそんなことを思う。

世の中には、帰る緑と書いて、
帰緑会(きりょくかい)というのがあり、
緑に呪われた、ではなく、緑に祝福された、この地に帰ろうというものらしい。
また、アンチプランツという組織もあり、
これは政府非公認で植物を抹殺している。
花術師は、どちらにも基本属していなくて、
ルーツは昔の華道になる。
政治も宗教もない、花にしたしむ道、だった。
今でも花術師の集まりは、連合会と称され、
華道の名残がちょっとだけ残ってる。

都市は大体どこかの派閥が与党野党という感じになっていて、
ものすごく大雑把に言えば、
帰緑会とアンチプランツが対立をしている。
様々の主義主張、政党、思想会。
いろいろあるけれど、大雑把には、植物を肯定か否定かだ。
そのくせ、人間は電脳化などしていて、花毒から逃げて長生きしようというのが大半だ。
花術師というものは、なまじっか花毒に耐性があるから、
大掛かりな電脳化をしているものは少ない。
それがどうにも、時代の流れに反しているとか、
花を扱うので薄気味悪く見られていたりだとか、
そういうことがあるらしい。
アキも、うすうす感じてはいるが、
政治とかの場だと、なかなかしんどいと噂でだけ聞く。

時代ってなんだろう。
考え込むアキの上で、木漏れ日が一瞬さえぎられ、それなりの爆音。
花火じゃない、爆音だ。


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