殺しと出会い
市役所は騒然となる。
アキの聴覚は少し、麻痺をする。
頭を振り、爆音からの回復を待つ。
電脳化していないから、こういうときは不便だが、
アキは生身の五感を使いたい。
聴覚が徐々に回復して、
市役所の騒がしさが耳に入る。
ついで、上のほうから何かの放送らしい騒がしさ。
何かを主張しているらしいが、
アキはまず、イラッとした。
基本直情的なアキではない。
けれど、まず、イラッと。
アキは上を見て、木漏れ日が少し吹き飛んだそこを見る。
市役所がまだイメージ暗いといわれていたころの、
芸術品が足蹴にされている。
何かを訴える放送をしている何人かの、
邪魔だと言いたげに芸術品が足蹴に。
アキは、イライラが刃物のような怒りに変わるのを感じる。
自在鋏のスイッチをいれて、大きな鋏に。
芸術は主義主張で足蹴にされるものじゃない。
どういう主義かは知らないけれど、排除したくなった。
アキの中での理屈は、とりあえずそういう理由をつけて。
アキは、市役所を覆っている植物の根や枝を華麗に飛び、
羽根のように自在鋏をひらめかせる。
アキ自身がそういう生き物の芸術のように。
アキは芸術の敵を排除しようと、跳躍する。
敵が何を訴えているかは知らない。
芸術の冒涜者は、それだけでアキの敵だ。
アキは枝から高く跳躍。
木漏れ日が美しかった、市役所の上の階へと躍り出る。
驚きに目を見開く敵。
アキの鋏が、届く、はず。
その前に、敵の何体かが踊るように痙攣して、倒れ、爆発の穴から下に落ちる。
かろうじて落ち損ねた敵が、穴だらけになって、倒れて枝に引っかかる。
一瞬だった。
アキの鋏よりも早く、
たぶん、撃ち殺した奴がいる。
撃ち殺した、そう、これは、銃。
アキは、振り返る。
そこには、男が一人。
「花術の鋏に、人殺しさせちゃいけないっすよ」
ゴーグルで表情、特に目の感じはわからない。
声は低く、それでも楽しそうに。
片手には、隠していない銃。
細く煙が上がっている。
「こういうのは、武術師の仕事っす」
武術師という男は口元を笑みにした。
人を殺したことなど、なんでもないように。