怖い男とその笑みと


日の光は生きるものも死ぬものにも等しく。
アキが思考をちょっとの間停止している間に、
ソウシは口元の笑みをちょっと深くして、
「強制じゃないっす。ただ、呼んでくれたらうれしいっす」
アキの思考が始まったら混乱。
どうしたらいいだろうとか、そもそもなんでとか、
問わなくちゃいけないのに、何を問うがいいのかわからない。
言葉が出てこない。
植物相手ならもっとわかりやすいのに。
アキは困った。
困っているアキをソウシは見ていたが、
市役所職員や、警察官がようやく下に到着したらしい。
ソウシは笑みを隠す。
日の光は生きているものにも、死んだものにも等しく。
植物にも、そうでないものにも等しく。
だけど、ソウシの笑みが消えると、ちょっと残念な気がしたのはなぜだろう。
アキは自分でもわからないものを抱え込む羽目になった。

「それじゃ、下に降りますか。現状説明しないといけないっす」
「ああ、うん」
アキはぼんやりと答える。
そのあとに、
「…行こうか、ソウシ」
小さく付け加える。
「はい」
うれしそうなソウシの声を無視して、アキは市役所の一階へと飛び降りる。
ソウシも続いて飛び降りる。
そのくらいの運動能力はある。
アキも植物で地形がめちゃくちゃなところをよく行くから、
飛んだり跳ねたりはかなり得意だと思って欲しい。

「ごくろうさまっす」
ソウシは警官に挨拶を軽く。
警官もソウシのことを知っているらしい。
「で、今回のは?」
「依頼っす」
「武術師が依頼を受けたんなら仕方ないな、で、暗殺か」
「いや、依頼はどっちかというと護衛?」
「何で疑問系だ」
「今回しばらく複数受けてるんで。護衛もあるっす」
「一応いつもの免許を出してくれ。それで終わりだ」

アキは型どおりの警官とソウシのやり取りを見ていた。
さっきのような笑みを、口元にすらソウシは浮かべていない。
「守られたのかなぁ…」
アキはつぶやく。
答える人は、とりあえずいない。
死体は時間がたつと、植物に飲み込まれて、
それはそれで処理が大変になる。
運ばれて、身元確認したら、埋葬と称してどこかの森へ。
山も森もそれこそたくさん。
完全犯罪っていうのも楽な時代になったのか。
殺しに免許があれば、型どおりで済むのだ。

「ソウシ」
アキは小さく、本当に小さくつぶやく。
守ってくれた、怖い男の名をつぶやく。


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