ぷつりと


アキはぼんやりと、成り行きを見ている。
芸術を足蹴にしていたのは、何らかの主張をしている一派で、
細かく分けられた主義主張のその一派を、
アキは聞いたこともないしわからない。
ただ、プランツネットという名前だけは覚えられた。
「なにがなんだかなぁ…」
アキは市役所の椅子に腰掛ける。
ソウシがもしかしたら全部済ませてしまうかもしれないけれど、
アキにも事情を聞くようなことがあるかもしれない。
とりあえず、アキは椅子に座って成り行きを見ている。

アキくらいの年齢、一応この時代において成人しているものは、
大体、大災害を経験している。
自分の力でどうしようもない、そういう災害をよく知っている。
本当に、命というものは、ぷつりとなくなってしまうものだと感じる。
今まで積み重ねてきたものが、ぷつりと。
個人の歴史なんて、本当にあっけないと。
それでもアキは、生きた。
混乱と花毒の中を生きた。
好きな芸術や、友とした植物が、価値を変えていくのを肌で感じた。
飛躍的に電脳技術が発展していくのも、敏感に感じた。
アキがそれでも連合会の花術師になったのは、
友と思った植物に、自分でとどめを刺したかったから、
アキはぼんやりそんなことを考えて、
この時代に生まれて、よかったのかなと考える。
この時代でなければ、大災害前の平和な時代だったら、
一生、植物は友だったに違いない。
芸術と植物を融合させて、楽しく、何かの創作に鋏が使えていたかもしれない。
そして、誰かを殺そうなんて考えなかったかもしれない。
アキの自在鋏は植物しか切ったことがないはず。
人の命、植物の暴走。
考えるほどにアキはうつろになっていく気がする。

市役所の一階は、
騒動が一通り片付いて、
通常業務が始まっている。
警察は後片付けをしたらしく、
もう、血痕すら残っていなくて、
上の爆発の名残で、そこにさっきよりも光が差し込んでいる、その程度。
個人の歴史なんて、殺されればすぐに終わる。
それでも何かを残せるものだろうか。
アキは何を残せるだろうか。
何もかもが植物に飲み込まれるこの世界で、
花摘むばかりのアキは何ができるだろう。


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