車に乗って
手続きを終えて。
流されるようにアキは芸術館行きが決まった。
まぁ、報酬は結構はずむらしいと、ソウシがいっていたので、
それを信じてアキは異論を唱えない。
アキは人と話すのが基本苦手だ。
植物のほうが、花術師の感覚解放して歌が聞こえるだけわかる。
そんなこといったら、ソウシはアキのことを変な目で見るかな。
アキはそう思って、ちょっと黙りがちになる。
ソウシにはあまり変な目で見られたくない。
市役所を出ても、あたりは結構な植物が繁茂していて、
まぁ、植物がこうあるのは水戸のいつものこと。
アキはすたすたとバス停に向かう。
「待ってくださいよ」
ソウシが後ろで声をかける。
「エコカーでよければ、現場まで送ってきますよ」
すでにミトが乗ってにゃあと鳴いている。
後ろには犬が一匹。
日本の犬らしいがアキはわからない。
「乗っていいの?」
「どうぞっす」
アキは助手席に乗る。
ミトがその膝に乗る。
後部座席で犬が静かにしている。
「ハチっていいます」
「ハチ?」
「まぁ、いろいろあったところをひきとったんす」
「ソウシ、動物好きなの?」
「いろんなものが好きで、いろんなものが嫌いっす」
「変な答え」
「まぁいいじゃないっすか、どれ、いきます」
ソウシの車にスイッチが入る。
静かに、でも、わずかのうなりを乗せて。
車は走り出し、一路芸術館を目指す。
水戸芸術館は、
大災害前までは水戸のシンボルタワーのあるところだった。
現代アートなんかをよく展示していて、
芝生の広場では、休日の親子連れがのんびり過ごす。
たまには大きなパイプオルガンが奏でられ、
ホールではかなりレベルの高い演奏会なんかがあった。
あまり意味のないとされていた水戸の三角を組み合わせたような塔も、
なかなか掃除できないという理由でくすんで、
それでも大災害があって倒れたという情報はない。
梅香トンネルの近くの坂を上がり、
すっかり植物に囲まれている、水戸のシンボルタワーが見える。
「倒れてないのね」
「そりゃ、水戸のシンボルっすから」
わかるようなわからないような。
ソウシの運転は的確に。
道も間違えずに芸術館を目指す。