水戸芸術館


大まかに水戸市の中心街のことを説明しておこう。
大災害前は、水戸の中心街はシャッターの降りた店の多い通りだった。
水戸駅北口に、百貨店の廃墟から始まり、
メインストリートを銀杏坂というところを登り、
南町という町を突き抜けるように、南町一丁目から三丁目まで。
泉町にいたり、泉町一丁目に、京成百貨店があり、
それから、泉町が一丁目から三丁目まで。
そして、メインストリートの終わりに、大工町がある。
大工町近辺は繁華街というより歓楽飲み屋の町があり、
大災害の後も酒を飲みたいものが集う。

大体、水戸駅から、
銀杏坂、南町、泉町、大工町。
という流れだと覚えておけばいい。

さと、アキたちが目指す水戸芸術館だが、
メインストリートとは一本北側の裏道に、一応、芸術館通りという通りがある。
地図があると説明しやすいのだが、ないのでしょうがない。
さっき話に少し出た京成百貨店。
百貨店がメインストリートの南側にあり、
だいたいそこから、メインストリートと、芸術館通りをはさんで北側、
町の名前は変わって、五軒町という町になる。
民家がほどほど、公民館や病院がぽつぽつ。
少し行けば、水戸二高がある。
大災害後も植物が増えた以外は、
比較的静かな町というのは変わっていない。

ソウシの車は今も営業している京成百貨店の近くを通り、
メインストリートを横切って、五軒町に入る。
芸術館通りに入ったところで、
少しばかり花の匂いがする。
「ソウシ」
「ああ、俺は花は大丈夫っすよ?」
「ミトやハチは」
「まぁ、いろいろあって平気なんすよ。やっぱり花の気配感じるものっすか?」
「花毒はあまり出てない。けど、時間の問題」
「なら一緒にいきますよ」
「…ありがとう、おねがい」
アキは自分でもびっくりするほど素直な言葉が出た。
人を殺すのも、ためらいないソウシという男であろうに、
護衛の依頼が終わったら、アキの方など向かないかもしれないだろうに、
でも、アキは嘘をつきたくなかった。

命はいつか、不意に失われる。
植物化して声も届かなくなる。
ならば、聞こえているうちに素直になりたい。


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