現代アーティスト


車は芸術館通りの路肩に停めて、
降りてアキはあたりを見回す。
花術師が手を入れているのか、
それともそういう種類の植物を使っているのか、
花毒を出すような花は少ない。
けれど、遅かったと思われるものがいくつか。
ソウシもミトもハチも降りてきて、
芸術館の広場のあたりを見て、
「あーあ」
と、ソウシは落胆する。

芸術館広場。
大災害前は芝生の広場で、のびのびと家族が遊んだところ。
今はそこに、現代アーティストによるオブジェクトが。
人の目線で言えば死体。
植物になった死体。
これがアートだというのか。
おもいおもいの格好をして、
花に包まれている儚い人間を表現しているのだろうというのが、
わかるだけに腹が立つ。
これが現代のアートというものなのか。
アキは腹を立てて、悲しくなって、
これが命をかけた表現と、もてはやされたら嫌だなと思った。

「アキさん、ちょっといいっすか?」
「うん?」
ソウシがオブジェになった死体をじっと見ている。
「やけに花の気力がないなぁと思って。どうっすか?」
「うん…そういえば」
感情が先にたって気がつかなかったが、
確かに人が植物に変わったにしては生気がない。
アキはオブジェに触れる。
かさかさとなり、なんだか、植物特有の張りがない。
中に満ちているべき水がないという感じに近い。
そんなことってあるのだろうか。

ソウシが別のオブジェに触れると、
ぱらぱらぱらと崩れてしまった。
「これも表現の一環っすかね?」
「植物に飲み込まれる人間が作りたいのなら、植物を強く出すべきね」
「じゃ、なんか違うと?」
「とりあえず連絡だけ先にしとくわ」
言いながらアキは携帯端末に市役所の窓口の番号を入れる。
「ああ、助川です。今、芸術館です、はい、はい、現代アーティストは全滅と思われます」
アキの後ろでまた、ぱらぱらオブジェが壊れる。
「はい、引き続き劇場行きます。はい、思ったほど花は咲いていないようです、はい。では」

「昔の携帯使うのは、花術師だからっすか?」
「電脳化していないから、携帯端末使うしかないのよ」
「じゃ、いきますか」
生気のないオブジェはそのうち全滅するのだろうか。
命をかけた表現の、儚さというものもあるらしい。


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