混沌の歓楽街大工町
芸術館から大工町はそれほど距離はない。
ソウシの運転するエコカーの助手席で、
アキは水戸の中でも混沌に満ちているという、
歓楽街大工町のことを頭の中で整頓していた。
大工町は、混沌の飲み屋歓楽街である。
植物の延々成長するのに目をつけて、
怪しい薬草、怪しい果実、そういうものを町ぐるみで栽培している。
闇花術師と呼ばれる、連合会に所属していない花術師が、
植物の手入れをしているとか、
大工町の無数の店ぐるみで、植物を共犯者にしているとか、
大工町の法、奇妙なバランスで成り立っているという。
アキはいいイメージを大工町に持っていない。
正直言って怖い。
ソウシがいなければ、夜の大工町なんて絶対行かない。
大体、と、アキは思う。
人間はわからない。
植物は感覚開けば大体パターンが歌になってわかる。
人間はわからない。
アキは理解できない。
みんな片っ端から電脳に切り替えしていて、
余計理解しにくくなる。
ソウシの車が信号で止まる。
「ソウシ」
アキはポツリと呼ぶ。
「なんすか?」
「ソウシは生身?」
「一応。ただ、これ視界帯域拡張用のゴーグルはかけてます」
「しかい?え?」
「あー、昔の眼鏡のすごいのっす」
「そっか…眼鏡か」
「電脳化はしていないし、反射も生身のノイズが加わったほうがいいんで」
「武術師もそうなの?」
「俺の好みっす。花術師の生身の理由とは、ちょっと違うっす」
「そっか…」
アキは運転席のソウシを見る。
ソウシは前をじっと見ている。
信号が変わって、車が走り出す。
「大工町は、一部の店では仮想現実の空間を用意しているっす」
「それは、なに?」
アキは尋ねる。
「飲み屋はわかると思います。大工町に無数の飲み屋風俗の店があることも」
「うん」
「当然狭いってことはわかるっすよね?」
「うん」
「花毒の一種と、割り込みの電子信号で、その狭い店に、現実とは違う空間を作りだすんです」
「それは…合法?」
「いや、バリバリ違法っす。花毒は取り締まり厳しいっすからね」
アキはため息をひとつ。
訳がわからない。
「大丈夫っすよ。俺が守ります」
ソウシは言い切る。
車は大工町の近くまでやってきていた。