ゆがんだ感覚
ミトが消えていったシャッターを、
ソウシが同じようにくぐっていく。
シャッターは開かない。
思うに、恰好だけの幻みたいなものなのだろう。
アキは少しだけ考える。
このまま、この、怪しいシャッターに吸い込まれていいものか。
すると、シャッターから、にゅっと手が出てきて、
続いてソウシの顔だけが出る。
「怖くないっすよ」
ソウシの顔は、そう言って微笑んで、また、シャッターに消えた。
アキの近くで、ハチがお座りをしている。
アキは軽く覚悟を決めた。
「ハチ、行こうか」
アキは歩き出す。
ハチがしっぽを振って続いた。
シャッターはやはり幻で、
入るにあたって何の障害もなかった。
しかし、そのあと続いた、経験した種類でない眩暈。
アキはほぼ生身だから、
それなりに頭痛も眩暈も風邪だって経験したことはある。
それらの身体的異常とは違う、眩暈。
椿姫の絶唱のあの時を思い出しかけるが、
それとも何か違う、
例えるなら、身体の底に響く、乾いた眩暈。
アキは頭を振り、
眩暈が落ち着くのを待つ。
深呼吸。
眩暈は体の中で落ち着いた感じがする。
階段が少しあるようだ。
その奥にドア。
アキは階段を下りてドアを開ける。
広い空間に出た。
アキはその風景に呆然とした。
高くのびのびと成長した竹林、
さわさわと風の通り抜ける音すら聞こえる。
涼しげな竹林のそばに、
お休み処と書いてある、古風な店。
古風、古民家とでもいうものなのか。
アキは周りを見渡す。
大工町の面影は全くない。
振り返ればドアはある。
アキは、お休み処に向かって歩く。
中から声が聞こえる。
アキが中をのぞくと、
ソウシとミトがいる。
よくよく見ると、お休み処の中は、
ほかにも人がいるようだ。
「あ、やっと来たのね」
女性の声がした。
この声は聞き覚えがある。
吸血鬼のオギンだ。
「ネオ西山荘へようこそ」
店の奥でオギンが微笑む。
アキは何から尋ねればいいか、少しだけ混乱した。