ネオ西山荘


ネオ西山荘。
オギンはそう言った。
言われたアキは、西山荘についてのことを思い出そうとする。
確か水戸光圀が住んでいたとかその程度の知識だ。
「大工町なのに西山荘?」
まずはそんなことを言葉にする。
「まぁ、お座りよ。いろいろ聞きたそうな顔をしてるしね」
「まぁ、そうですけど…」
アキはネオ西山荘と名のついた、お休み処の古民家に入る。
いったいどういう仕組みで大工町に竹林や古民家があるのだろう。

ネオ西山荘の中は、
割と広い。
それでもどこかちぐはぐ感がある。
古民家然とした囲炉裏と座布団。
ソウシはそこに胡坐をかいている。
アキが視線を変えると、
割と大きな、階段状になった棚に、
ゆったり座ったオギンがいる。
彼らのいる空間に、
浮かぶように、パソコンの画面に現れるような窓が、
いくつも開いている。
アキは電脳に直結するような真似は今のところしたことがない。
なんでこんなものが見えるんだろう。

「この町でよくあるやり方だよ」
アキの上から声がする。
上を見ると、
天井でさかさまになりながら電脳窓をいじっている少年がいる。
開いて、閉じて、あるいは囲炉裏の周りに転送して。
「僕はヤシチ。電脳忍者と覚えて」
ヤシチの説明によると、
大工町に来るときにソウシの言った、
花毒の一種と電子信号から作る、
拡張性仮想空間らしい。
アキが電脳化していなくても見えるのは、
自在鋏の電子的なチャンネルを使っているらしい。
仮想空間、だから竹はおとなしく竹林だし、
ネオ西山荘には電脳窓がいくつも開いている。
アキが来るときに感じた眩暈、
あの時に花毒の弱いのと、電子信号を組み込んでいたらしい。
「ネオ西山荘はご隠居の隠れ家だよ」
ヤシチはそういって、さかさまに浮いたままで笑う。
宙に浮いているこの忍者も、
仮想空間だからこの姿なのだろう。
それにしても、ご隠居とは?

「それでは始めようか」
老人の声がした。


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