ご隠居


老人の声がする。
アキは声のした方を見たが、
誰もいない。
確か囲炉裏のある方から聞こえたのに、
そこには猫のミトがいるばかり。
もしかしたら、仮想空間の何とかで、
見えないけれど声が聞こえるというのがあるのだろうか。
疑問符が飛んでいるアキの顔がおかしいのか、
ソウシが少し笑う。
笑ったソウシを見て、
アキは眉間にしわを寄せる。
なんなんだ一体。

「アキさんや、わしじゃよ。ミトじゃよ」
「へ?」
アキは間の抜けた声を出す。
「わしは猫型サイボーグのミトじゃ」
「え、猫?さいぼ、え?しゃべって、え?」
ソウシが大笑いする。
オギンが噴き出す。
ヤシチは天井からスーッと飛んでアキの近くに来る。
「アキさん、ミトのご隠居の猫の姿は世を忍ぶ仮の姿」
「仮の?」
「そう、水戸光圀のゴーストプログラムがなされてるんだ」
「なにそれ…」
「ええと、電脳による水戸光圀の生まれ変わり」
「わけわかんない…」
アキはかぶりを振る。
そのアキのそばに、大きな影が来て、
ぬっと大きな手が出てきて、
その手には、湯のみに入ったお茶。
「どうぞ」
「あ、はい…」
アキは疑うことなく受け取る。
大きな影を見れば、
がっちりした体格の、隠すことのないロボットのような男。
一言で言ってメカっぽい。
「彼はトビザル。ネオ西山荘の仲間だよ」
「よろしく」
「あ、よろしく」
ヤシチがトビザルを紹介し、アキはぺこりと頭を下げる。

「さて、わしは聞いての通り、水戸光圀の複製じゃ」
ミトが猫の姿で話す。
「あらゆるネットワーク情報にある、水戸光圀を集めて作ったのがわしじゃ」
「そんなこと、できるの?」
「わしはプロトタイプじゃ。数少ない成功例じゃ」
アキは何と言っていいかわからないが、
この猫が、ミトが、すごいものだということは何となくわかった。
「わしは命じゃ。よって、ロボットではなくサイボーグじゃ」
ミトは猫の顔で目を細めて笑う。


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