困ったときには


アキはミトと契約することにした。
ミトはヤシチに言って、
契約書を作らせる。
ヤシチが窓を開いて、
契約書をうつす。
アキは契約を一読。
トビザルが紙媒体としてコピーしてくれた。
たくさん契約の内容が書いてある。
こういうのは読まないと後で大変なんだろうなと思う。
電脳だったら脳に送ってそれで終わりだけど、
電脳化しない紙媒体は大変だなぁと思う。
アキは契約書を一読。
違約金とか、法外な罰金とか、
そんなのはなさそうだ。
ヤシチの窓に指紋認証の指のしるしを押す。
一応紙媒体の契約書にもサイン。
これで契約成立。
一応。

「ありがとう、アキさんや」
ミトが微笑む。
猫が笑うのはいい表情だとアキは思う。
「さて、肝心の端末だな。トビザル、ヤシチ」
ミトが二人を呼ぶと、
トビザルが箱を持ってきた。
ヤシチはふわりとアキの近くにやってくる。
「アキさんの端末、新しい端末にデータ移し替えるよ」
トビザルの箱を開けると、
アキがまだ触ったことのない、
滑らかな形の新型端末。
アキが自分の旧式端末を出すと、
ヤシチは目を真ん丸にした。
「まだこんなの使ってるんだ!」
「大きなお世話」
「まぁいいや。それじゃ、移し替えるよ」
ヤシチが端末周りで窓を開いたり閉じたり。
アキのわからない表示がたくさん。
「アキさん、この表示わかる?」
ヤシチが尋ねる。
「わかんない」
アキは答える。
ヤシチはにんまり笑うと、
「そう、わからないのをわかってるといいんだ」
アキはわからない。
ヤシチは続ける。
「わからなくて困ったら、仲間を頼れってこと」
「仲間」
アキは繰り返す。
「そう、今日から仲間。それでいいと思うんだ」
ヤシチが話しながら端末の設定をする。
困ったときには仲間がいる。
それはアキの生きてきた中でも、
あまり経験したことのない感覚だ。


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