わからないこと


ヤシチが端末の設定をして、
アキに新しい端末を渡してくれる。
今までのものと、だいぶ勝手が違う。
悪戦苦闘して、基礎を習得する。
何だか覚えが悪いなぁとアキは思い、あくび。
あくび?

「アキさん眠いの?」
ヤシチが尋ねる。
そういわれれば瞼が重い。
「そっか、ここは夜設定入れてないからなぁ」
アキは自分が眠いと自覚したら、
いよいよ眠くなってきた。
大工町に来たのがすでに夜だったし、
いろいろあって頭がパニックだ。
「アキさん」
心地いい声がかかる。
ソウシだ。
「眠っていいっすよ」
アキはその言葉を聞くと、
すう、と、意識を手放し、
そっとそばに寄っていたソウシの胸に体を預ける。
警戒も何もない。
遊び疲れた子供のように、
或いは、疲れ果ててスイッチが切れたように。
ソウシはそんなアキの髪を少しなでる。

「危なっかしいね、アキは」
オギンはそういう。
「だから俺が雇われたんすよ」
ソウシが答える。
「アキさんには手を汚してほしくないんすよ」
「花術師だから?」
「いえ、アキさんだからっす」
「へぇ…」
オギンはにやりと笑う。
「アキさんには、わかってほしくないことが山ほどあります」
「あんたはそれを全部隠す気?」
「この手が隠せるなら、全部」
「言うねぇ」
オギンがからかう。
「植物が癒しだった時代、アキさんはそんな頃の匂いがします」
「時代は変わったわよ」
「アキさんは変わらないでいてほしいんすよ」
「人も変わるわよ」
オギンの言葉にソウシは答えない。
ただ、アキの髪をまた、少しだけなでる。

アキはわからない。
今までのことも、これからのことも。
まだなにひとつ。


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