朝は来る


奇妙な感覚がする。
いつもと違う感覚。
朝日が来ないし、
目覚ましは鳴らないし、
どこに置いたっけ。

「アキさん」
優しい声、落ち着く。
「朝っすよ」
この特徴的な語尾は、
思い至ってアキの意識は覚醒する。
目を開くと、知らない天井。
昨日は、そうだ、
端末の使い方を聞いて、
覚えようしてたら、眠くなって、
それで、
アキは、がばと起き上がる。
アキが寝ていたのは、
昔よく使われていた布団というもの。
中には、綿が詰まっているタイプ。
綿の花も花毒を出すから、
綿の布団なんてなくなって久しい。
綿は比較的おとなしいけれど、
綿製品が高騰して、高級品になって、
化学繊維が大衆向けになって、
アキも綿の入った布団になんて、
眠ったことがない。

「……ふとん」
アキがつぶやくと、
「綿の布団は珍しいっすか?」
すぐそばにソウシがいた。
アキはこくりとうなずく。
「ミトの趣味っすよ」
「ミトの」
「古い時代を知っているからっすかね」
「そっか…」
アキはあたりを見回す。
昨日いた部屋とは違う部屋のようだ。
「ネオ西山荘自体、仮想空間に近いっすけど」
「けど?」
「こうして、古いものを持ってくるのは、ミトの趣味っすね」
「…初めて寝た」
「男と、っすか?」
「おとこと…?」
ソウシはにやりと笑う。
アキが悪趣味な意味を知った次の瞬間、
ソウシは思いっきりビンタで張り倒された。

「何もしてないっすよぉ」
「当たり前だ!バカ!」
アキは頭の中が沸騰しそうな気分になった。
とにかく目の前のこの男は馬鹿野郎だ!

アキは朝からご立腹だ。


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