思いをはせて


アキが思いっきりソウシをビンタして、
その物音で誰かが気が付いたのか、
部屋を仕切っていた、ふすまが開かれる。
「あんたら朝から痴話喧嘩?」
開いて早々あきれ半分のオギンと、
アキに駆け寄ってくるハチ。
アキはハチの頭をなでる。
「俺にもそのくらいしたって罰当たらないっすよ」
ソウシがそう言うと、
ハチが思いっきり威嚇する。
威嚇にはひるまないソウシではあるけれど、
アキには無視をされた。

「トビザルが、ご飯作ってくれたわよ」
「ご飯なんて、いいんですか?」
「食べましょ」
オギンについていくと、
昨日の囲炉裏の部屋。
ヤシチがふわふわ浮いて
電脳窓の開け閉めをして何か調べている。
トビザルは、メカメカしい身体にかわいいエプロンをまとって、
古き良き朝ご飯を作っている。
白米に味噌汁。
焼いた魚に、水戸名物の納豆。
「これ、本物?」
アキは思わず尋ねる。
「本物、です」
トビザルが言葉少なに答える。

「おお、起きたか」
囲炉裏のそばで丸くなっていたミトが起き上がり、
ぐっと伸びをする。
「ミト、こんなに豪華な朝ごはん、いいの?」
アキが同じことをまた尋ねる。
「いいのじゃよ」
そんなことを言うミトの前に、
トビザルがおいしそうな猫まんまを置く。
確かサイボーグだったはずだが、
食べるものは猫のそれでいいらしい。
「食べ物はつながっているのじゃ」

ミトが言うに、
植物が暴走する前から、
植物の命、動物の命を食べてきた。
暴走したこの時代は、
植物と戦って、死んでいった命もある。
そうして届けられた食べ物に、
失われた命をつなぐ覚悟で食べる。
死ぬ気で戦うものに思いをはせて食べよう、と。

「じゃから」
ミトは猫まんまの前にかしこまる。
「いただきます、で、いいのじゃよ」
失われた命をつなぐ覚悟。
食事とはそういうものだ。


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